王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。

2『おまえがいてくれてよかった』

 裏のファストフードを選択したおれに町田の否はなかった。
 食にこだわらないでくれるのは本当にありがたい。
 虎もまだ友だちとはそこいらの店に入れない規律に縛られたガキなので、ハンバーガーで大喜びなのは助かるけども。
 まさか10年もむかしの光景がフラッシュバックするとは。
「兄ちゃんたちは、いつもこんなかんじなの?」
 虎が町田に甘えている。
 ガキのころ、スーパーのフードコートでいつもおれにしていたみたいに。
 椅子の下では両足がぶらぶら揺れている。
 子どもと犬は実にわかりやすい。
 わかりやすく好かれると、試したくなるわけで。
 おれは兄歴15年。
 虎にとっては、ひたすら理不尽ないじめっ子のはずだ。
 虎はただ素直なだけなのにな。
一海(ひとみ)さんて、おうち、どこ? 兄ちゃんと帰れる日は、昼はうちで食べたらいいのに。おれ、作るよ?」
 町田が静かに首を振る。
「おれね、ドラムは叩きたいから学校に来てるけど、それと加藤さんは別。――重荷にはなりたくないんだ。それは理解して…もらえる?」
「うん」こくりとうなづいた虎の頬がみるみる赤く染まった。
「兄ちゃんが…大事なんだね」
 答えようもない町田がほほえむ。
 虎が誤解したまま納得する。
 おれは――?
 おれは、どうすりゃいいんだよ。
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