カレシとお付き合い② 森君と杏珠


 翌日、学祭当日。

 とぼとぼ、教室に入る。
 あんまり寝れなくて、ぐるぐる考えてたし、来るのも遅くなった。

 教室に入ったとたん、



「どしたの?
なんかあったの? 」


と太陽ちゃんに聞かれた。


「森すごい凹んでたよ。
ギリギリまで杏のこと待ってたけど、放送で呼び出されて、渋々行ったところだよ! 」
「⋯⋯ 」


あんな言いっぱなしで、逃げたのに⋯⋯ 。



「こないだから言ってたのって、もしかして森の事? 」


と、心配そうに聞かれた。無言で肯定してしまう。


「森はなんか近いからね、女子との距離が」


太陽ちゃんでもそう思うんだ。
私は聞いた。


「⋯⋯ 森君を好きな人は全員カノジョって言ってるって聞いた⋯⋯ 」
「あー、それ」


と太陽ちゃんが、何でもなく言った。


「それさ、中学一緒の子はみんな知ってるけど、英語の時間の時の話なんだ」
「えいご? 」


英語と関係あるの?


「授業中の事なんだ。
人称の範囲の時に「男の子は(he)彼」のあと、たまたま森に和訳があたって、
『女の子は彼女です』
ってあの声で言ったもんだから、悲鳴が上がったんだ、女子達から。
それから事あるごとに、周りに言われるようになって、噂だけが残ったんだ。
今では、あいつも自虐的に使ったりしてるみたいだね」


そうだっんだ⋯⋯ 、


「太陽ちゃん⋯⋯ 」
「何か言ったの? 森に? 」


そう、いろいろ言っちゃったんだ⋯⋯ 。


「私より、サエキさんの方が、深い付き合い方してるって言った。
森くんは私のこと、ちゃんと見ようともしてないって言った。
余裕ばっかで、いい加減にあしらってるって言った」


太陽ちゃんが、少し驚いたみたいに言った。


「森が余裕?
そー見えた?
ぜんぜん、余裕ないよ、あの人。
今日も気の毒だったよ」


森君が余裕ないの⋯⋯ ?


「森は本当にサエキとは仲良くないよ。
たぶん同じクラスになった今年まで、ずっとしゃべりもしてなかったよ」
「でも、このクラスになってから、サエキさんに親身だよ、サエキさんの悪いところを直してあげようって、ちゃんと向き合ってる ⋯⋯ 」
「違うよ、杏珠」


と、太陽ちゃんは、私を見て言った。


「それは、サエキが杏に何するか分かんないから⋯⋯ 森なりに守ってたんだよ、杏の事。杏のために」
「私の⋯⋯ ため? 」
「サエキを止めようとしてたんだよ」


 私のために。サエキさんにかかわっていた。
 彼のまさに、心外ってかんじの顔を思い出した。
思いもよらない、変なことを急に言われたってかんじだった
 本気で怒ってた。


「森ってシレッとしてるけど、同じだよ。
上手くいかなかったり、後悔したり、迷ったりする。
カッコつけて、本当の弱い自分を見せるのが怖かったんだよ」


 森君も悩んでるって知ってたはずだった。私。
彼に悩みを話してもらって、泣くほどだったのに。

 なのに、自分のことでいっぱいになってしまっていた⋯⋯ 。


《学祭の委員の人は、持ち場に移動してください》
校内放送がかかり、はっとした。
行かなきゃ!

< 58 / 68 >

この作品をシェア

pagetop