契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
なんの感情もなさそうに言い放ったその声に、私は自分が大きな勘違いをしていたことに今更気付かされた。
桐生さんにとったら、家事をしてくれる私の存在は雇った家政婦のようなもの。
相手に対して特別な感情があるわけではないから、何かしてもらえばその働きに対して賃金を支払うというだけのことだ。
考えてみれば私が困って遠慮するのもお門違いということ。
勘違いも甚だしいって、思われたかもしれない。
「……そう、ですね。わかりました。すみません、いろいろ理解してなくて」
「いや、お互い初めてのことだから仕方ない。気にしなくていい。じゃあ、続きを。第七条……乙は、甲の申し出により夫婦として、妻としての姿を滞りなく──」
読み上げてもらっている契約内容が右耳から左耳へと通過していく。
緊張しながら聞いていたはじめのあたりとは打って変わり、張り詰めていたものが緩んでしまったような感覚。
この契約結婚に対して、桐生さんと私でははじめから温度差があったようだ。
契約の元とはいえ〝結婚〟ということに私はそれ相当に悩み、決心をしてきた。
だけど、桐生さんにとってはただの〝契約〟でしかないということ。
今日ここに来るまでにぐるぐるとしていたのは、不毛な時間だったということだ。