ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。


 フカヒレスープとか仔牛のローストみたいなやつとか?というかそもそもここ何料理のレストランだったっけ。

 橋岡さんは、運ばれてくる料理に思いを馳せていた私にも目を向けた。


「直島様。この前は突然お会いしに行き、勝手なことを言ってしまったことを、心から謝罪いたします」

「あ、いえ……」


 深々と頭を下げられて面食らう。

 ハルさんに目で助けを求めると、彼はまた橋岡さんに「ほら、座って」と言う。

 そしてようやく橋岡さんが私たちの向かいに座ったとき、ウェイターが料理を運んできた。
 なんちゃらの直火焼きなんとかソースを添えて……という感じの料理名だった。馴染みのない名前でよく聞き取れなかったが、とりあえずステーキっぽい。

 ……どうやって食べたらいいんだろう。


「こっちから言いたいことはいくつもあるけど、とりあえず橋岡の言い分を聞こうか」

「はい」


 ナイフをどう使おうかと考えている間に、真剣なトーンで話が始まってしまった。ハルさんは特に気にした様子もなくステーキを切り分けているが、橋岡さんの方は手を付けずに背筋を伸ばして話し始める。

 私はというと、ナイフを使い慣れないせいでカチャカチャと音が立ってしまい、結局いったん諦めて話を聞くことにした。



「単刀直入に申し上げます。晴仁様、澪様にはやはりあなたが必要です。澪様の隣にいるべきなのは、私ではない」

「僕から澪を奪ったのは君だよ?それで今更そんなこと、ずいぶんと無責任だね」

「……本当に後悔しています。ですが、澪様に手を出すような真似をしていないことは誓います」

「全くわかってないんだね」


 ハルさんの声は、いつも私と話すときのように穏やかな雰囲気を醸しながらも、どこか鋭めの棘がある。


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