わたしたちの好きなひと
第9章『アンビリーバボー』

 修学旅行初日、京都は渡月橋(とげつきょう)を渡って嵐山(あらしやま)
 野宮(のみや)神社は源氏物語ゆかりの縁結び神社だそうだ。

「岡本、お守り、買わないの?」
「あんた買えば?」
 ひーん。
 京都に着いてからずっとこんな調子。
 バスを降りたとたん、ひとりでさっさと歩きだした岡本を、あぜんと見送ったクラスの女子たちは、無責任にもわたしの背中を押した。
 荒ぶる猛獣の世話係。
 新幹線では野生の猿の世話係だったのに、ついてないにもほどがある。

 常寂光寺(じょうじゃっこうじ)から化野念仏寺(あだしのねんぶつでら)で、石仏の間を歩くあいだも、むっつり、だんまり。
 そりゃあ、わちゃわちゃさわぎながら歩く場所じゃないけども。
 本堂から左手にまわって、孟宗竹に囲まれた道を六面六体地蔵尊へ。
 気づくとほかのクラスの女子たちが数人、岡本のあとを追っていた。
 サッカー部の練習をいつもベンチで見ている子たち。
 なかでも鈴木さんは、ご丁寧にわたしに同情の目線をくれた。
 掛居と恭太がやらかしたことを知っている唯一の部外者さんだから、岡本が不機嫌なわけを、あの騒ぎに結びつけているのかもしれないけど。
「な一に怒ってんだろなぁ」
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