「遅いなぁ……」
 その日の夜、御國は眠ったニコラを腕に抱えたまま何度も扉を見て待っていた。
 いつもならメイドがニコラを受け取りに来てくれる頃だが、今夜はどれだけ待っても部屋にやって来なかった。
「旦那様も来ないし……」

 あの日の夜以降、毎晩、旦那様は部屋に来てくれるようになった。
 その日あった事やニコラの事など取り留めない話を僅かばかり交わすだけだったが、御國はその時間を大切にしていた。
 病み上がりとはいえ、屋敷内にこもってばかりで、御國の気持ちはだんだん落ち込んでいった。
 最近はティカなどのメイドと話すようになったが、それでも同じ場所で、同じ事の繰り返しで、気持ちが滅入ってきたのだった。

 だからこそ、旦那様と話して、外の様子を聞ける瞬間を大切にしていた。
 旦那様は庭に咲いた花や、仕事で出掛けた際に見かけたものについて話してくれた。
 旦那様の話を聞いている内に、やはりここは自分が住んでいた世界ではないのだと御國はだんだんと理解してきたのだった。

 それ以外にも、最近になって御國には悩みの種が増えたのだった。
「あっ……! またっ……!」
 キーンと頭が痛んだ。御國は落としそうになったニコラを慌ててギュッと抱きしめたのだった。
 そうして、御國が最初にニコラに授乳をした時に頭の中に響いた声が、また聞こえたような気がしたのだった。