ハージェント家の天使
「貴方に連絡を入れなかった事はお詫びします。私も使用人に簡単にしか知らせていなかったですし」
「いえ、そんな……。何ともなかっただけ良かったです。屋敷の近くで事故が遭った旦那様に巻き込まれていたらと、心配に思っただけですので」
「こんな夜更けまで私を待たずともいいでしょう。部屋まで送ります」
「さあ」と、旦那様は御國の腕を取ると、御國の歩調に合わせて部屋まで連れて行ってくれたのだった。

 旦那様は御國の部屋の前まで来ると、御國の腕を離した。
「今度からは私の帰りが遅くなりそうだったら、先に寝て下さい。貴方は病み上がりであり、ニコラの母親なんです」
「はい。すみません……」
 御國が「おやすみなさい」と旦那様に言いながら、部屋の扉を開けようとすると旦那様の手が扉を強く押したのだった。
 そうして、「ところで」と旦那様は御國の顔を覗き込んだのだった。

「モニカ。最近、何か隠し事をしていませんか?」
「えっと……。隠し事ですか?」
 御國の背中がヒヤリとした。
「き、気のせいですよ。私は何も隠していません」
「きっとお仕事が忙しいので、疲れて見間違えているだけです」と、御國が恐る恐る頭1つ半大きい旦那様を見上げた。
 旦那様はじっと何か言いたげな顔をして、御國を見つめていたのだった。
「……そうですか」
「お時間を取らせました」と答えると、旦那様は扉についていた手を離したのだった。
 今度こそ御國は部屋に入ると、扉を閉める前に旦那様に振り返ったのだった。
「おやすみなさいませ。旦那様」
「おやすみ」
 御國は静かに扉を閉めたのだった。
 旦那様はただじっと御國を見つめていたのだった。
< 17 / 166 >

この作品をシェア

pagetop