ハージェント家の天使
「わぁ! これはルビーでしょうか? 素敵な指輪ですね!」
 御國は窓から差し込む光に指輪をかざしてみる。
 指輪は光を受けて、キラキラと赤く輝いていたのだった。

「前に、と言っても、貴方が階段から落ちて眠りにつく前に、貴方は私があげた指輪を失くしたと、大騒ぎをしましたね。それをきっかけに私達は大喧嘩をしてしまいました」
 御國はギクリとしたのだった。
「そ、そうでしたね!」
「あははは」と苦笑いをしながら、御國は指輪を何もつけていなかった左手の薬指につけた。
 ペルラが言ってた「モニカ」が旦那様にニコラを会わせなかったというのは、きっとこの大喧嘩がきっかけの事だったのだ。

「それなら、私はもう気にしていません。この指輪で充分です」
 御國が両手を顔の前で振っていると、突然、旦那様は御國の右手を掴んだのだった。
「あの、旦那様?」
 そうして、旦那様はもう片方の手でも御國の右手を掴むと、顔を顰めたのだった。

「貴方は、いったい誰ですか?」

「だ、誰って。私はモニカです。旦那様の妻で、ニコラの母親の」
 御國は旦那様から逃れようとするが、旦那様は手を離してくれなかった。
「いいえ。モニカは、私の知っているモニカは、こんな人ではなかった」
 旦那様は握る手に、力を込めてきたのだった。
「モニカは私からの贈り物は、何1つ受け取らなかった。それどころか、私との間にニコラを産んだ事も、私と結婚した事さえ、モニカは嫌がった」
「だ、旦那様……」
 旦那様は御國に顔をぐっと近づけてきた。

「それなのに、目が覚めた時から貴方は自分以外誰にも触れさせなかったニコラを私に抱かせ、嫌っていた使用人達に優しい言葉をかけた。そして、昨夜は私に抱きついてきて、今は私からの贈り物も受け取っている」
 御國は赤くなった顔を後ろに引いたが、旦那様は逃してくれなかった。
「目が覚めた貴方は、別人のようになっていた。まるで、モニカの顔をした別人のように」
 真っ直ぐに見つめてくる旦那様の紫色の目から、御國は逃れなさそうだった。
「だ、旦那様。顔が近いです……。それと、そろそろ手が痛いです……」
 先程から、旦那様に握られた右手は痛みを訴えていた。
 しかし、旦那様は御國を解放してくれそうになかった。

(どうしよう。全部、話そうかな……)
 御國が悩んでいると、頭がズキリと痛んだのだった。
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