ハージェント家の天使
「私もマキウス様の事をもっと知りたいです。貴方がどんな人なのか……。どんなに素敵な人なのかを」
「モニカ……」
「マキウス様」と、モニカはそっと呼びかけた。
「私の中にいた『モニカ』は旅立ちました」
 マキウスはハッとした顔をした。
「旅立つ時に、『モニカ』は私に『みんなをよろしく』と言いました。そうして、私の意識は『モニカ』と混ざり合いました」
 モニカは息を吐いた。
「そうして、私はモニカになりました」
「ようやく? いや、やっとなれたのかな?」とモニカは悩んだ。

 先程までの、ここ数日悩まされていた割れるような頭の痛みは、今はすっかり治っていた。
 そして、身体の中から聞こえてきた『モニカ』の声を消えていた。代わりに身体の中には、どこか喪失感だけが残っていたのだった。
 頭の痛みは『モニカ』が持っていってくれたのだろうか。それとも、頭の痛みこそ『モニカ』だったのだろうか。
 今では、もうわからないが。

「そうですか」
「今までは、私の意識と『モニカ』の意識は別の物でした。私の中に2人のヒトがいるような状態で。けれども、今は私の意識の中に『モニカ』の記憶や知識が入っている状態なんです」
 モニカ自身も上手く説明出来ている自身は無かった。それでも、マキウスはただ相槌を打って、話を遮る事なく聞いてくれたのだった。

「今日はこのまま休んで下さい。諸々のお話はまた後日」
 モニカがこくりと頷くと、旦那様は口元を緩めたのだった。
「他の者にはニコラの育児疲れが出て休んでいると伝えておきます」とマキウスの言葉にモニカは甘える事にしたのだった。
 マキウスはモニカから手を離して扉に向かうと、その前で立ち止まった。
 そうして、振り返ったのだった。

「おやすみなさい。モニカ」
「おやすみなさい。マキウス様」
 マキウスは小さく微笑むと立ち去った。
 扉が閉まると、モニカはそっと目を閉じた。
 額には、まだマキウスの熱が残っていたのだった。
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