ハージェント家の天使

婚姻届

　マキウスと話した数日後の夜。
　夕食を済ませたモニカは、部屋のベッドに腰掛けると横にニコラを寝かせて遊んでいた。すると、マキウスがやってきたのだった。
「マキウス様！」
　マキウスは白色のシャツに黒色のズボンと、部屋着であった。
「モニカ、こんな時間にすみません。ようやく仕事が落ち着いたので、今夜は早く帰れたんです」
　モニカがマキウスと話してから数日、マキウスは先日遭った馬車の事故の後処理で毎日遅くまで仕事をしており、なかなか話す時間が取れなかった。
「そんな……。マキウス様も毎日遅くまで、お仕事お疲れ様でした」
　モニカがマキウスの労をねぎらうと、マキウスの後ろに女性が立っている事に気づいた。
　女性の手は白い羊皮紙を持っていたのだった。
「マキウス様。そちらの女性は……？」
　マキウスはモニカの視線の先に気づくと頷いたのだった。
「ああ。今日はモニカに紹介しようと思って連れて来たんです」

　マキウスに促されてやってきたのは、モニカより幾分か歳上の女性だった。
　薄い金色の髪を後ろで１つに纏めて、頭からはふさふさの毛が生えた狐色の耳が生えていたのだった。
　メイド達と同じようにメイド服を着ていた。
　その雰囲気や佇まいは、どこかで見た事のあるような気がした。
「彼女の名前はディアマンテ。ニコラの乳母です」
　マキウスが紹介すると、ディアマンテはお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。モニカ様。ディアマンテと申します。アマンテとお呼び下さい。母や旦那様からモニカ様のお話は伺っております」
「初めまして。アマンテさん。モニカです。いつもニコラをありがとうございます。それに私が階段から落ちて意識を失っていた間も、ニコラを代わりに育ててくださったそうで……。ありがとうございます」
　モニカが階段から落ちて意識を失っていた間、ニコラを代わりに育ててくれたのは乳母のアマンテと聞いていた。
　今でもモニカが寝ている夜間や、手の空いていない昼間は、ニコラを代わりに見てもらっており、いつかお礼を言いたいと思っていたのだった。

「とんでもございません。モニカ様の体調が良くなられてきたとの事で、私も安堵しております」
「ありがとうございます。……ところで、母から聞いたというのは？」
　これにはマキウスが答えてくれたのだった。
「モニカ。アマンテはペルラの娘だ」
「えっ！？」とモニカは驚くが、言われてみればアマンテはペルラに、どことなく似ていた。
「私などまだまだです。母はマキウス様方を貴族として相応しい人柄に育てあげましたもの」