ハージェント家の天使

　ペルラが開け放した扉から入ってきたのは、ニコラを抱いたマキウスだった。その後ろからは、アマンテが慌てたように入ってきたのだった。
　ニコラを抱いたマキウスは、いつも以上に笑みを浮かべていたのだった。

「マキウス様、お待たせしました。出かける用意が出来ました」
「どうですか？」とモニカが顔を赤らめながらマキウスに訊ねる。
　マキウスは白色のシャツに赤色のリボンタイをして、黒色のズボンと同じ色のロングコートを羽織っていた。
　足元も黒色のブーツであった。
　マキウスはニコラをアマンテに渡すと、頭から爪先までモニカをじっと見つめてきたのだった。
　そうして、笑みを浮かべた。
「ええ。とてもよく似合っています」
「ただ」と、マキウスはモニカの頭に手を伸ばしてきた。
　ビクッとモニカが目を閉じて身体を硬ばらせていると、マキウスはティカに結んでもらったばかりの髪を解いたのだった。
「旦那様！？」
　思わず、ティカが声を上げてしまった。
　そんなティカをペルラはキッと睨みつけたのだった。

「この髪型は、既婚者がする髪型です。今のモニカはまだ既婚者ではなく婚約者です。この髪型はまだ早いのでは」
「それに」とマキウスはモニカの髪を一房取ると、口をつけた。
「モニカは髪を流した方が、よく似合っていると思いますよ」
「マキウス様……！」
　モニカとマキウスが見つめ合っていると、ペルラが咳払いをしたのだった。
「おふたり共、ニコラ様の前ですよ」
「あっ」とモニカとマキウスは離れた。
　モニカもマキウスも、顔が真っ赤に染まったのだった。
　その後、モニカはティカに両耳にかかる髪だけを後ろで小さく団子状にまとめるハーフアップの髪型に直してもらった。
　その間、マキウスはペルラに「お子様の前ではもう少し謹んで下さい」と怒られていたようだった。
　その様子を、アマンテに抱かれたニコラは不思議そうに、じっと見つめているようだった。

　今度こそ用意が終わると、モニカはマキウスに腕を取られて屋敷を出た。
　屋敷の前に止められた1頭の馬が引く馬車に乗る前に、モニカは後ろを向いたのだった。
「アマンテさん、私達が出かけている間、ニコラをお願いします」
「勿論です。モニカ様、旦那様とのお出掛けを楽しんできて下さいませ」
　モニカはニコラの手を握ると軽く振ったのだった。