ハージェント家の天使

お姉様

 マキウスと別れたヴィオーラは1人屋敷を出た。
 マキウスは案内の使用人を寄越すと言ったが、ここは元々ヴィオーラが所有していた屋敷という事もあり、隅々まで熟知していた。
「モニカさんはこの辺りにいると聞いたのですが……」
 先程、モニカの部屋に行ったところ、ニコラをあやしていたアマンテからモニカは庭に出ていると聞いたのだった。
 そこで、ヴィオーラは庭に出て、モニカを探していた。
「いけません! モニカ様!」
「やっぱり、私が木に登ります!」
「今、庭師にハシゴを持って来させます。屋敷の奥様であるモニカ様に木登りをさせたなんて知られたら私の首が……」
 屋敷の影から、モニカの話し声が聞こえてきたのだった。
 ヴィオーラは声が聞こえてくる方に向かったのだった。

「モニカさん? どうしましたか?」
「ヴィオーラ様!?」
 ヴィオーラが行くと、屋敷の影の木の前にモニカとメイドがいたのだった。
「どうしてここに!?」
「私は暇《いとま》を告げに来たのですよ。モニカさんこそどうしてここに」
「それが、風に飛ばされた洗濯物が木に引っかかってしまって……」
 ヴィオーラが木を見上げると、屋敷の2階辺りの高さの枝に白色の布が引っかかっていたのだった。

 メイドはため息をついた。
「2階の窓から取ろうとしたのですが、私では高さが合わず手が届かなくて……。そこにモニカ様が通りかかったんです」
「私でも手が届かなくて、それで下から木に登ったらいいんじゃないかって言ったんですが、ティカが駄目って……」
「当たり前です! モニカ様に怪我をさせたらそれこそ私が怒られます!」
 メイドはティカという名前らしい。
 ヴィオーラは木に触れ、次いで枝に触れると
「それなら」と提案したのだった。

「私が取りますか?」
「えっ!? でも、ヴィオーラ様にそんな事をさせられません!」
 モニカが驚いている間にも、ヴィオーラは枝に手をかけると地を蹴って枝に登った。
 スルスルと木を登って行くと、洗濯物が引っかかっている枝に辿り着いたのだった。
「ヴィオーラ様!?」
「危ないです!?」
 枝がしなり、葉が落ちた。
 下から2人が騒ぐ声が聞こえてくるが、ヴィオーラはそのまま木から降りたのだった。
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