ハージェント家の天使

御國の思い出【上】

　モニカが目を開けると、そこは見慣れたアーケードの中であった。
　年季の入った大理石のタイルの上に、ところどころ残る鳩の忘れ物。
　定期的に手入れをしていると噂のガラスの天井の上を鳩が飛んでいた。
　モニカの後ろを女性同士のグループ、サラリーマン、カップル、主婦、お年寄り、家族が通って行った。
　スマートフォンで話したり、イヤフォンで音楽を聞いたり、数人のグループで話したりしながら歩いていた。
　遠くからは、車のエンジン音が聞こえてきたのだった。
　そんな喧騒だけではなく、アーケードの入り口からは、年季の入った立ち食い蕎麦屋の美味しそうな出汁の匂いが漂ってきた。
　蕎麦屋の側にはドラッグストアがあった。老若男女関係なくお店の中に消えて行った。
　蕎麦屋の前には大きな横断歩道があって、信号機が変わる瞬間を誰もが待っていた。

（ああ、これは……）
　これは、御國だった頃の記憶だ。
　自分が住み慣れた街の中心部、新幹線が通って、新しく地下鉄が開通して、大型商業施設に囲まれたそんな駅の側のアーケード。
　アーケードの側には、御國が落ちた階段があるはずだった。

　モニカは閉店したシャッターの前に立っていた。
　このお店は何のお店だったのだろうか。思い出せなかった。
　モニカが自分の服に目を落とすと、白色の花が散りばめられた紺色のワンピース、白色の膝丈まである白色の薄手のカーディガン。
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