王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。

2『不運な男』

 もちろん、へたれ男のおれは、知恵がわくまでなにもしないという選択肢にチェック。
 おれには王女さんが退屈している姿も、悲しんでいる姿も見えないし。
 見えない相手が消えたところで、知ったこっちゃない。
 ブラスバンド部の大会が近いせいで、昼休みすら音楽室が使えなくなった町田のドラムはもう聞けないし。
 孤高のお受験戦士らしく、ひとりで生きていくわ。

 * * *

「…ってえ!」
 席を立ったとたん、なにか硬いものにわき腹をずどんと突かれた。
「あ、悪い」
 後ろの席で立ち上がった木村の通学バッグだ。
「なに入ってんだよ、それ」
「それが受験生に聞くことか。タブレットと参考書に決まってるだろ」
 まともな返事をしてきた木村は、振り返りもせず廊下に出て行く。
 腹をこすりながら廊下に出ると、かかとを小さく上げ下げしながら足立が木村を待っていた。形容するなら、まあルンルン。
 並んで歩き出すふたりの頭を見ながら、腹立たしくなるおれはどんだけ小者?
 足立がハイヒールをはくようなキャリアウーマンになればちとやばいとはいえ、ぺたんこの上履きの今は真横を向けば即ちゅーできそうな位置関係。
 はぁ…。
 やっぱり同級生っていうのは便利だよなぁ。
 しかもやつらは幼馴染ときたもんだ。
 受験生の分際でライトに恋愛ごっこも楽しみたいなら、効率よく通学時間にいちゃこらできる最強ハッピーセット。
 少しはおれに感謝してんのか?
「うわっ」
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