王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。

3『ネコ女』

 そんなわけで虎隊員の出動、決定。
 町田のためにひと気のない線路脇の細道に移動して、虎に告げた作戦。
「なんだかまだよくわかんないけど。とにかくそのお姉さんと仲良しになれば、兄ちゃんの助けになるんだね?」
「ごめんね、とんちゃん。いつか時間を作ってちゃんと話すからね」
 なんで町田が申しわけなさそうなのか。
「ううん」虎はふるふると首を振った。
「兄ちゃんがナンパなんてできるわけないし。仲良くなればいいだけなら、ぼく、お姉さん得意だしっ」
「そういえば――五十嵐とはすっかり仲良しだってものね」
 町田がほほえむ。
「うん。でも今も沙織さん、なにも聞かないでいてくれるから――。ぼくも知らなくていい。兄ちゃんは間違ったこと、しないもん」
 いいや。
 今回、完全に王女さんは間違ってるから。

 なんて言って話しかけようかな、制服でいいかな。
 ぶつぶつシミュレーションして、やる気満々の虎の横で町田の目が言っている。
 時間をくれ。話す機会をくれ。
 そうだな。
 五十嵐は聞かずに虎のそばにいてやってくれる。
 おまえは、話して。
 虎のそばにいてやってくれ。
 うなずいてやると町田がはにかんだ。
 色つきグラスのせいで表情は読めなくても、なにしろうつむいた首が真っ赤だ。
「あーあ」
 苦しむ虎を見つけてくれた町田への恩返しはこれにて終了。
 町田には虎をやる。
 ひとの絶望や悪意が見えてしまうことに苦しむおまえを信じるやつをひとり追加。
 ――でぇもぉぉぉぉぉ――
 おばさんを友だちに追加って。
 うちの王女さんは、無茶ぶりにもほどがある。



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