パラダイス、虹を見て。
 暗闇は嫌いだと言っているのに。
 どうして目の前は暗いのだろう。
 走っても、暗闇は続いている。
 私は手を伸ばす。
 追われている。
 振り返りたくはない。
 この先には何もないだろう。
 ずっと暗闇なのに。
 でも、走っている。

「……」
 目を覚ますと、明るかった。
 ふっかふかの枕。ふっかふかのベッド。
 一瞬、どこにいるのかと考えて。
 ゆっくりと起き上がると。
 周りをキョロキョロとさせて、知らないところだということに気づき。
 無事に天国に来れたのだと安堵する。

 ぼう…としていると。
 徐々に肌の感触が戻ってきて。
 顔に何かが張り付いているのに気づく。
 頭に、背中に、お腹に…
「どういうこと?」
 誰かが、治療して包帯を巻いてくれたってこと…?

 天国でも怪我をしたままの状態で行くのかぁ…と考えていると。
 ドアがトントンッとノックされて。
 男性が入ってきた。

 その時、今更ながら左目が布で覆われているのに気づいた。
 そうだった、思いっきりあの男に目を殴られたんだった。
 視界がいつもと違って、やけに見づらいなと思いながらも。
 男性をじっと眺めた。

 年は30歳ぐらいだろうか?
 見るからに、「私は貴族です」という格好をしていた。
 高級そうな黒の生地に金色の刺繍。その刺繍の細かさを見るに「ああ、高いやつだ」と思った。
 輪郭は丸顔、整った顔は白く大きな目で私を見ている。
 綺麗な顔だと思った。
 と、同時にどういうわけか「懐かしい」と思ってしまった。

「ノア・ハワードさん」
 男性の言葉にビクリと身体が勝手に震える。
 伯爵家の令嬢として迎えられた、私の本名はえらく短い。
 結婚する前はそんな名前だったけ…と考えながらも。
 身体が勝手に震えたのは。
 見も知らない男が、私の本名を知っていたからだ。
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