秘密の館で暮らし始めて一ヵ月が経った。
 過去の自分は「ゴミ」で消えてしまいたいって何度も思っていたけど。
 ここへ来てからの自分は変わった。
 まず、好きなことをしても誰にも怒られない。
 朝起きて、朝食を食べて。
 畑仕事をしたり、庭仕事を手伝う。
 夜は、誰かと必ず夕食を共にして。
 寝る前に誰かが付き添って、たわいもない話をする。

 不眠だった日々から解放され、
 見えない恐怖からも解放され。
 幸せってあるんだと驚きを隠せなかった。

 唯一の心残りは、
 養父母に会えないこと。
 私が会うことは二度とないだろうけど。
 せめて、謝りたかったなあ。

「ぱ、パーティー!?」
 その日は珍しく、モヤさん以外の全員が揃って夕飯を食べていた。
 ヒョウさんに「毎日、ドレスアップする必要はないからね」と言われたので、質素な紺色のワンピースを着て、食事をしていた。
 思わず、目の前に座っているヒョウさんを凝視する。
「そう。舞踏会。踊って、飲んで食べての繰り返し」
 ヒョウさんの言葉に。
 私は一気に食欲をなくした。

 目の前には、アラレさん自家製のサラダが置かれている。
「俺が招待されたんだけどさ、是非。カスミと一緒に行こうかと思ってさ」
「私が行くのはマズいんじゃ…」
 助け船を求めるつもりはなかったけど。
 ヒョウさんの隣に座っているアラレさんと目が合った。
 アラレさんは、アハハと笑って。
「本当はね、俺がヒョウと行きたかったの。でも、俺、男だから行けないの」
 自虐ぎみに言った一言に。
 その場の空気が一瞬で凍り付いた。
 ただ一人、ヒサメさんは気にしないで、食事を続けている。
「ヒョウ、このお嬢さんの知り合いと鉢合わせする可能性はないの?」
 お嬢さんという言葉に、むっとして。
 私は思わず隣に座っていたヒサメさんを睨んだ。
「ああ。大丈夫。仮面舞踏会だから」
 ヒョウさんはヒサメさんを見ながら言う。

 私は、気まずくて。
 どう返していいのかわからなくなる。
「俺が昔、お世話になった人が主催する舞踏会だからさ。ペアで来てくださいって言われていて。だから、カスミ。頼む」
 そう言って、頭を下げるヒョウさん。
 何故かアラレさんも、
「俺からも頼みます」
 と言って頭を下げられてしまう。

(絶対に行きたくないわー)