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 あの夜から。
 少しだけ、サクラが心を開いた気がする。
 …と言っても、
 時折、部屋に引き籠っているけど。

「ヒカリ、随分とサクラと仲良くなったなあ」
 いきなり、モヤさんが話しかけてくるので。
 私は「きゃあ」と悲鳴をあげてしまった。

 夕方、庭園のベンチで。
 ぼーと花を眺めていたときのことだ。
 夕方から夜にかけての時間が好きで。
 仕事を終えて一人、ベンチで座るようになった。
 サクラは部屋で休むと言ってた。アラレさんはヒョウさんとデートに行くと言って、はしゃいでたっけ。

 モヤさんは隣に座る。
「帰ってきてたんですか?」
 うっすらと髭の生えたモヤさんを見るのは、一ヵ月ぶりだった。
 モヤさんは、一ヵ月ほど国中を旅して。ここに戻ってきては絵を描いたり彫刻をしているそうな。
「昼ぐらいに戻ってきて。皆を観察してた」
 にんまりと笑うモヤさんに。
 しばし、あきれ返る。
 この人は人間観察が好きなのか。
 帰ってきても、どこかに隠れて皆を観察する癖があるようだ。

「サクラが元気になってよかったー」
「…特別な子なんですね」
 素性は未だわからないけど、サクラは皆に大切にされている子なのだと思った。

 モヤさんが黙って前を見るので。
 私も黙った。
 モヤさんの側にいるのは、本当に心地良い。
 風が吹いて。草木が揺れて。
 夜がやってくる。
 この切ない感覚の中。
 モヤさんといると不思議と心強い気持ちになる。

「…あの、モヤさん」
「なんだい、ヒカリ」
 ふふふと笑うモヤさん。
「あの…、ヒサメさんの姿をずっと見ていないんですけど。お仕事か何かですか?」
 心臓をドキドキさせながら言った。

 仮面舞踏会で抱きしめられてから。
 直接、ヒサメさんとは会話していない。
 夕食時にヒサメさんを含め、皆で食事することはあったけど。
 そのうち、ヒサメさんを食堂で見かけることもなくなってしまった。

 考えてみると。
 アラレさん以外は、あんまり屋敷にいない気がする。
 夜になるとユキさんは部屋に顔を出してくれるけど。
 ヒョウさんは常にいないのが当たり前。
「ヒサメ? あいつが居ないってことはないと思うけど…。何かあいつに用なの?」
「えっ…」
 モヤさんの質問に。
 どう返していいのかわからない。

「いや…、用ってほどじゃないんですけど」
 声が小さくなるのを感じた。
「あいつ、夜しか現れないからねえ。ヒカリが会いたがってたって声かけておくよ」
「えっ!? いや、大丈夫ですって」