パラダイス、虹を見て。
 馬を走らせること小一時間。
 王都へやってきた。
 人生初の王都は、人が沢山いて。
 店が沢山あって。
 キラキラと輝いて見えた。
「ヒカリ、こっち」
 そう言ってモヤさんは私の手を引く。
 細い路地を通ったところに床屋さんの看板があった。

「いらっしゃーい」
 ドアを開けると、カランカランという音が降ってきて。
 中に立っていたのはモヤさんと同い年くらいの男性だった。
 人懐っこく笑顔で迎えてくれている。
「あれ、モヤさん。この前、切ったばっかりでしょうに」
「ああ、僕じゃなくて。この子」
 そう言ってモヤさんは私を見る。
 ペコリと頭を下げると、男性は「えー」と声を出した。
「何、奥さん?」
「奥さんなワケないだろうが」
 むう…と怒った顔でモヤさんが言った。
「お嬢さん、こんなオッサンがやっている店より若い子が行くような人気の店で切ったほうがいいんじゃないの?」
 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので。
 黙り込むとモヤさんが「いいの!」と言い切る。
「目立った店には行けないんだよ」
 モヤさんが言うと。
「あー、なるほど。そういうことー」
 と言って男性は納得した。
 モヤさんの言葉にチクリと胸が痛む。

「俺、可愛く切れるか自信はないけど。どういうふうに切ってもらいたいの?」
 そう言って。
 男性は私の髪の毛を触った。
「えっと…。短く」
「短く? 毛先そろえるくらいでいいの?」
「いえ。モヤさんくらい短く」
 はっきりと言うと。
 男性が黙り込んだ。
「正気?」
 驚かれるのも無理はない。
 この国では女性=長髪でショートヘアの女性なんていないのだから。
「はい。邪魔なんで」
「いや、それは駄目だよ。俺には出来ないよ」
 と男性は後ずさりし始める。
 仕方ないので。
「はさみ、借ります」
 そう言って、私は三つ編みをしている髪の毛を。

 じょきっ。

 音を立てて切った。
「これで、揃えてもらえますか?」
 あっけにとられている男性と。
 隣にいたモヤさんは「アハハハハ」と大声で笑い始めた。

「さーすが、ヒカリ。やることは大胆だねえ」
「そうですか?」
 モヤさんの笑いは止まらない。
「あー、面白い。ピーさんよ、ヒカリの髪の毛。切ってくれるよね?」
 男性は、ピーさんというのか。
 ピーさんは「…仕方ない」とため息をついた。
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