拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
新たな証言

 菱沼さんが居なくなった後のだだっ広いリビングのソファの上で、私は膝を抱え込んで泣き崩れていた。

 そんな私のことを傍で優しく見守ってくれているのが、菱沼さんの話の間中ずっと気まずげに沈黙を貫いていた愛梨さんだ。

 愛梨さんは私のことを励まそうとさっきから何度も優しい声をかけてくれている。

【菜々子ちゃん、大丈夫?】
「……全然、大丈夫じゃないです~」

 けれどどんなに優しい言葉をかけてもらったところで、地中深くずっしりと沈んでしまった気持ちはそう簡単には浮上することなく、余計に涙が溢れてくるばかりだった。

 身体のどこにこんなに大量の涙が収まっていたのかと不思議になるくらいだ。

 私は膝の上のクッションに泣き顔を埋めたまま、嗚咽混じりに愛梨さんに言ってもしょうがない恨み節を炸裂させる事しかできないでいた。

「こんなことになるなら、あのまま死んじゃった方が良かった。どうして助けたりしたの? 愛梨さんのバカッ。バカバカバカ~」

 それにもかかわらず、愛梨さんは気分を害することもなく、ずっと優しく見守ってくれていたのだった。

 そうしてどれほどの時間そうしていただろうか、泣き疲れた私がクッションに突っ伏したまま呆然としていると、不意に、愛梨さんが呟きを零した。

【本当に驚いたわぁ。まさか菜々子ちゃんがあの道隆さんの子供だったなんてねぇ。でもそういえば、どことなく似ている気もするわねぇ】

 散々泣いたお陰で幾分気持ちも落ち着いてきていたせいか、名前は知り得たものの、まだ会ったことのない父親に対する興味が沸いてきて、知らず知らずのうちに、

「どんな人なんですか?」

愛梨さんにそう言って問いかけていた。

 すると、今の今まで泣きじゃくっていた私から反応が返ってきたのが意外だったのか、水槽の中のカメ吉が驚いたように甲羅の中に引っ込めていた首を伸ばして、こちらの様子を窺うようにして真っ直ぐに視線を送ってきて、そして。

【そうよね? 今までお父さんのことを知らずにいたんですもの、気になるわよね?】

 うんうんと頷く素振りで感心したようにそう返してきた愛梨さんは、続けざまに、今度は意外な言葉を返してきた。

【それに、さっきの話だと、随分悪い人のように言われていたから余計よね】
「はい」

 力なく即答したものの、内心、どういうことだろうか? という疑問と、もしかしたらそんなに悪い人じゃないのかもしれない、という期待とで頭の中はひしめきあっていた。

 そんななか愛梨さんが静かに語り始めた。
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