昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 そうすれば、彼女が父親のことで悲しむこともなかったはず。この十五年どれだけ辛かっただろう。
 苦い思いが胸に広がる。
 そんな俺の両腕を掴んで彼女は微笑んだ。
「でも、私たち、こうしてまた会えましたよ」
 ホタルの光で凛の顔も輝いて見える。
「そうだな。お前にまた会えて本当によかった」
 俺が青山国際通商の件を伊織だけに任せていたら、彼女には再会できなかった。
伊織には『鷹政さま自ら調査する必要はないですよ』と反対されたが、青山国際通商はうちの中核を担う会社だったし、橋本財閥の不穏な動きも知っていたからいてもたってもいられなかったのだ。
「十五年前、鷹政さんはどうして葉山にいたんですか?」
 凛が不意にそんな質問をし、あの日のことを思い出しながら説明した。
「あの日父の通夜があったんだ。ずっと葉山で療養していたんだが、蝋燭の炎が消えるようにスッと息を引き取った」
「それで黒い背広に黒いネクタイをしていたんですね」
 俺の服装を覚えていた彼女は納得顔で頷く。
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