昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
にこやかに否定されたけれど、彼のこの世のものとは思えない美しい容姿に圧倒される。
 こんなに綺麗な男の人、初めて見た。
「女の子がこんな時間にひとりでいては危ないよ。僕が送っていってあげる。家はどこかな?」
 彼は屈んで手を差し出したが、私はその手を取らず首を左右に振って断った。
「いいの。私ずっとここにいる。必要とされていないもの」
「必要とされていない?」
 彼は微かに首を傾げ、もっと説明を求める。
「お父さまは私のことを疎ましく思っているの。お姉さまと弟のことばかりかわいがって……私のことは全然見てくれない。私は……お父さまにとって……空気みたいなもの……なの」
 ポツリポツリと話すうちに胸に溜めていたものが一気に溢れ出して、むせび泣く。
私は保科凛、八歳。
 長い黒髪に、まん丸の目。
 父に『お前は昔捨てた市松人形に似ている』と冷たい顔で言われた時から、自分の顔はあまり好きではない。
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