「……さん、大丈夫か? 保科さん?」
 引ったくりから私を助けてくれたメガネ姿の男性を呆然と見つめる。
 それはさっきまで一緒に仕事をしていた森田さんだった。
 彼に何度も名前を呼ばれてようやくハッと我に返る私。
「は、はい、大丈夫です」
 私が返事をしたその時、引ったくりが暴れ出して、森田さんのメガネが地面に転がった。
「往生際が悪いな」
 森田さんがすかさず引ったくりの男を投げ倒し、いつの間にか近くにいた短髪の背の高い男性に命じる。
「伊織、この男を頼む」
「はい」
 伊織さんという男性は引ったくりの両手を首につけていたネクタイを外して縛り上げ、騒ぎを聞きつけてやってきた警官に引き渡した。
 それはあっという間の出来事で、私はこの状況についていけずにいた。
 警官の質問にも私の代わりに森田さんが答えてくれて、私はただ彼の言葉に頷いただけ。
 警官が引ったくりを連行してこの場を去ると、胸に手を当てゆっくりと息を吐いた。
 不意に地面に転がった森田さんのメガネが目に入り、屈んで拾い上げるも足の指に痛みが走って思わず顔をしかめる。