昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 琴さんの手を掴んでダイニングテーブルに座らせたら、彼女は困惑した表情で私を見た。
「でも、私は……」
「琴さんは私にとって大事な家族だもの。それに、この時間はいつもお父さまは寝ているから大丈夫よ」
 父にとって琴さんは使用人だけど、私にとっては違う。琴さんだってたまにはゆっくりしてほしい。
 私の弟と姉も琴さんに優しく微笑んだ。
「そうだよ、琴さん。今日の朝食は僕たちが準備するから座ってて」
「そうね。琴さんも休みが必要よ」
 家は貧しくても、私たち姉弟の心はあったかい。
 終始和やかな雰囲気で朝食を済ませて会社に出勤するが、バスに乗ったら雷が鳴って雨が降ってきた。
「傘忘れた」
 お弁当のことで頭がいっぱいで、天気のことなど少しも考えなかった。
 バスが停留所に着くと、土砂降りの雨が降っていた。
 雨を気にしながらバスを降り、会社に向かって走る。
 これは会社に着くまでにずぶ濡れになるかも。
 足元を気にしながら走っていたら、どんと前の人にぶつかった。
「キャッ、すみません」
 
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