「修二が事件を起こしたら、きっと写真のことがニュースで取り上げられるんだろうね」


 とは、修二の趣味を知る数少ない知人の一人である蓮実の言葉だった。


「ところで、死体にしか欲情しないって、本当?」

「さぁ、どうだろうね。試してみよっか? 俺は多分、今の生きてる蓮実に欲情してるよ」

「修二のえっち……」


 蓮実は修二の恋人で、まだ十代だというのに死んだ魚の目を知っている女だった。

 修二が蓮実のそういうところに惹かれなかったといえば、嘘になるだろう。

 修二の趣味は死体を写真におさめることだから。

 死体にしか欲情しないというのはデマで、人間の死体を写真におさめたこともない。

 街をうろつき求めるのは、動物や虫の死骸ばかり。

 まあ、機会があれば人間の死体も撮ってみたいとも思うけれど。

 そんな風には思っていた。



   ◆ ◆ ◆ ◆

     死 体
      好
     事 家

   ◆ ◆ ◆ ◆



 夏も終わりに近づき、早朝の空気はずいぶんと冷えるようになった。

 昇りはじめだばかりの太陽に空はまだ夜の名残を残し、目を凝らせば星も見える。

 短い命を終えた蝉がぼたぼたと落ちる街路樹の下で、修二は一眼レフのカメラを携えて立っていた。

 出社や登校にはまだ早い時間なため、街に人気はなく商店もまだ閉まっている。

 空気を胸いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。

 夜更けの雨がつくった水溜まりには青い色を見せ始めた天上が映り込み、湿った空気は清々しくも惨めだった。

 修二は濡れた土の香りを求めて、公園へ向かう。

 アスファルトから公園の柵を乗り越えて、ぬかるんだ土の上に足を下ろす。

 泥が靴にまとわりついて、とたんに足取りが鈍くなる。

 泥が付着したせいで一気に重量を増した靴を引きずりながら、公園の散策を始めた。

 過密に植えられた木々の濃い緑の匂いは、街中で嗅ぐには息がつまる。

 まだ生きている蝉が目覚め、かしましく鳴きだす。


 修二は公園の中をうろつきながら、時折シャッターを切っていた。


 蜘蛛の巣に絡み取られ、翅だけになった蝶。

 木の根本で丸まり、乾いた毛虫。

 茂みの中にいた、目玉のない烏。


 悪趣味な死体の写真だけをえんえんと撮り続ける。

 フィルムがなくなれば入れ換えて、何枚も何枚も撮り続ける。

 これが修二の唯一の趣味で、唯一の癒し。

 部屋一面に飾られた死体の写真。

 修二は誰かに理解してもらいたいとは思わない。

 自分だけ理解していればそれでいい。

 それでも、部屋に遊びに来てくれる恋人と部屋に上げてもいいと思える友人には、無関心という理解を示してもらいたいとは思っていた。

 我が儘な感情だと思いながらも。

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