ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
第5章

_新しい地で


「いらっしゃいませー。」

 私は今、『Capo(カーポ)』というイタリアンレストランでアルバイト生活を送っている。


 あれから、千秋さんとは一度も連絡をとっていない。家を出た後、一度だけ着信があったけれど、それも無視してしまった。

 携帯を見ながら、何度も通話ボタンに手を伸ばそうとはした。でも、勇気が出ず、気づいた時には切れていた。

 すると、もう二度と携帯が鳴ることはなかった。



「すみませーん。」

 ランチタイムも終わり、少し落ち着いてきた店内。ゆっくりテーブルを片付けながらボーッとしていると、呼ばれた声にハッとする。

「はい。お伺いいた......、って。ちょっと、また来たの?」

 ハンディを手に向かうと、一気に気が抜けたような声が出た。


「初バイトは続いてるみたいだねー。」

 そこには、いつものように派手な格好をした双葉が座っていた。


「はいはい、で?ご注文は?」

「えーっとですねー。」

 そう言いながらまだ決まっていないようで、メニューを眺め始める彼女。相変わらずの自由人に呆れながら彼女を待つ中、ふと思い立ったように口を開く。


「あのさ、最近ずっと気になってたんだけど。」

「んー?」

「そのー、.......二人ってデートしてます?」


 双葉からチラリと視線を変える私。

 彼女の向かい側にはもう一人。

「いやー、その、ね。まだ全然!何もないよ?」

 ニコニコと笑って反応する、零士さんが座っていた。

< 141 / 264 >

この作品をシェア

pagetop