腹黒策士が夢見鳥を籠絡するまでの7日間【番外編② 2021.5.19 UP】
1日目『約束』


 そろそろ仕事終わりの時間。片付けが早々に終わった私は、そっとカバンの中から、小さな冊子を取り出して見ていた。


「何見てるの?」

 音もなく私の背後にやってきてそう聞いてきたのは、須藤裕先生。32歳。
 この東京都大学理学部准教授であり、父の研究室である鳥羽研究室・通称トバ研の教員でもある。

 昔から変わらないシルバーフレームの眼鏡、黒髪に黒い瞳。くっきりした二重瞼のせいで、実際の年より若く見られて、よく学生に間違われている。高身長の細身に似合う品のいいスーツに身を包んでいるが、それを覆い隠すように、使い古した、しかし丁寧に手入れされた白衣を上から羽織っている男。

 たぶん女子学生100人にアンケートをとれば100人どころか、その後ろでひっそり紛れていた男子学生までもが「かっこいい」と口をそろえるような男だ。

 私もかっこいいとは思う。
「かっこいい」、但し「かっこいいだけ」だ。

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