やわらかな檻
 例年のように慧へ花束を届けることもそりゃあ可能よ、でも何のために花を贈っていたのかを考えると……ね。

 少なくとも慧の傍には散らない花が一輪いるわけだし。

 二人して黙り込むと元々物音が極端に少ない家が更に静かになり、小さな声でも残らず拾えるようになる。

 ふと隣の部屋からビリビリと何か――おそらく包装紙を裂く音――が聞こえ、甥の硬かった表情が一気に和らんだ。

 「そうだね」と呟く。


「もう、花は要らない」


 そして勢い良く開いた襖の先に、頬を赤く染めた小夜さんが一人。




「きっと私、小母さまに渡さない方が後悔します。
渡す予定だった人には明日の分を取り置きしますし、事情を理解してくれないほど大人気ない人物じゃありませんから。ただ花を大切にして下されば、それで」

「じゃあ伝えておくわ。小夜さんの大切な人への思いがこもってるのね?」


「……はい、困ったことに」


【育てられた花/終】
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