やわらかな檻
 蝶は行き場をなくしたのを分かったのだろうか、いや、分かっていないだろう。

 私が、もしくは彼がこの襖を開けない限り蝶は外へ出られない。

 かといって、直ぐに死んでしまうわけでもあるまい……そう考えたら、暫くこのままでも良いや、と思ってしまった。


「可哀想に」


 呟いたのは慧だった。

 肘まで伸びた、並みの女性よりも美しい黒髪。
 すらりとした体型と、完璧な形を持つ指先。

 中性的な顔立ちに、伊達眼鏡。

 男物の着物を着た慧は、それでもなお、妖花のような危うさと艶やかさを持ち合わせている。
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