やわらかな檻
 大広間で華やかな談笑が繰り広げられる中、彼女は壁に背中を預け、水にしては濁った色の液体を口に運んでいる。


 壁の花だ、と馨は思った。


 しかし花を手折ろうと、もとい話しかけようとしている者は誰もいない。


 彼女の持つ気高さか、

それとも『病気がちな仁科の次男の婚約者』というデマだか本当だか分からないが、とにかく無闇に手が出せない立場からか。


 彼女にちらちらと視線を送りながらも、その勇気がなく立場もない。そう見受けられる。
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