狂おしいほどに君を愛している
プロローグ

0.エドウィンの場合

「馬鹿な真似をしたな、スカーレット」

黒髪に金色の人をした男。左目には眼帯をつけている。

彼はルシフェル王国第二王子エドウィン

騎士団長を務めている男は私に銃口を向けていた。

「国王は怒り心頭。国民もだ」

怒りと憎悪に満ちた目が私を捉えて放さない。

「どうしてかですって?それが分からないからよ。ムカつくのよ、あの女もあの女を崇拝する奴らもみんなっ!だからズタズタに切り裂いてやったの。あはははは、いい気味だわ」

そう言ってお腹を抱えて笑う私を見た騎士の一人が言う。

「狂ってやがる」と。

「狂ってないとでも思ったの?正気なんて保っていたらとっくの昔に死んでいるわ」

「どういう意味だ?」

騎士の質問に答えてやる義理はないので私は無視をした。

「慈悲深くて、誰からも愛される存在、リーズナ。ねぇ、そんな存在が本当にいるとでも思ってるの?」

私の問いエドウィンは答えない。

「そんな御伽噺みたいな存在いるわけないじゃない。実在するとしたらただの虚像よ」

「リーズナ様を馬鹿にするなっ!この悪女」

「よせぇっ」

エドウィンの制止を振り切り、騎士が私に向かって剣を振り下ろした。

それに追随するように他の者たちも私の体に剣を突き刺す。

「リーズナ様と同じ目に合わせてやる」

「リーズナ様の痛みを思い知れ、この悪女」

「お前なんか生まれて来なければ良かったんだ」

「お前にオルガの心臓は相応しくない。リーズナ様こそがその持ち主に相応しい」

騎士たちは私の体に剣を突き刺しながら何度もそう言った。

「やめてぇっ」

場違いな、そしてとても耳障りな声が朦朧とする私の耳にもはっきりと入った。

「‥…リーズナ様」

騎士たちが愕然とした声でその名前を呼ぶ。

「お願い、止めて。私は何とも思っていないから、だからそんな酷いことは止めて」

きっと泣きながら懇願しているのだろう。

そんな彼女に騎士たちは感動しているようだ。なんて単純で馬鹿なの。

「お義姉様と最後のお別れをさせて」

そうリーズナが言うと騎士たちは私から離れた。

リーズナは地面に膝をつき、私の耳元で囁く。

「愚かなお義姉様。優秀なヒーラーである私は自分の怪我だってあっという間に治せるのよ。あなたみたいな出来損ないに私を殺せるわけないじゃない。本当にあなたって哀れで愚かだわ」

そう言ってリーズナは騎士たちに気づかれないように私の傷口を抉った。

文句を言ってやろうと思ったけど口から出たのは体内から湧き出た血だった。

ああ、もうすぐ死ぬなと呆然と思った。

どくどくと体内から血が流れて行く。

掌からすくった砂が落ちるように、命が落ちて行く。

スカーレット・ブラッティーネとして生きてきた私の手はいつも空っぽだった。

どうして、いつも何も手に入らないのだろう。

そんな感情を最後に私の視界は闇に閉ざされた。

慣れ親しんだ闇の世界だ。
< 1 / 59 >

この作品をシェア

pagetop