狂おしいほどに君を愛している

4.母の躾の仕方

「そこで、何してんの、出来損ない」

「ひっく」としゃっくりしながら顔を真っ赤にした実母が前から歩いて来た。

片手に酒瓶を持っている。

どうやら朝からお酒を飲んでいたようだ。もしかしたら昨日の夜からかもしれないけど。それで食堂に居なかったのか。

「ちょっとぉ、聞いてるの?」

「っ」

実母は私の前髪を掴んで持ち上げた。そして何が楽しいのか、ゲラゲラと笑っている。

「何をしている?」

ぴしゃりと冷水を浴びたような声が後ろから聞こえてきた。

私は前髪を実母に握られているので後ろを見れないが声からしてノルウェンだろう。

「あらぁ、ノルウェンじゃない。相変わらずいい男ね」

「何をしているのかと聞いている」

母は全く相手にされないことに拗ねたように口を尖らせて私を見る。そしてゴミでも捨てるかのように放り投げた。

床に転がった私をノルウェンの冷たい視線が一度向いたけど、何か言うことはなく再度彼の目は母を捉えた。

「いやぁね。そんな怖い顔をして。ただの躾じゃない」

「躾?なるほど。躾にも育ちが伺える」

「どういう意味かしら?」

さっきまでネコナデ声を出して今にもノルウェンにすり寄りそうな感じだったのに棘のある言葉を投げかけられ、母は眉間に皴を寄せた。

「娘の頭を鷲掴みにするような躾は貴族にはない躾でね。高価なドレスや宝石で着飾っても育ちは隠せないようだ。そんな野蛮な行為を躾けと呼ぶなんて、品性を疑う」

「っ。あなたこそ目上の者に対しての言葉がなっていなようねぇ」

今にも手を上げて殴りかかりそうな態度だけど、相手は公爵家の正妻の子。長兄に何かあればそのまま公爵家を継ぐことになる。さすがの母も殴ればただですまないことぐらいは理解しているようで抑えている。

ノルウェンははっと母を鼻で笑う。

わざと挑発しているように見えるけど、わざとではないだろう。彼の素なだけだ。

「敬うべき人間には敬意を払います。朝から酒瓶片手に娘を虐待している人に払う敬意はありません。このことを父に報告してもいいんですよ。あなたはそこの娘のおまけ、お情けで邸に置かれているだけですから」

「っ」

母は一度私を睨みつけたが、本当に報告された追い出されたらたまらないと思ったのか踵を返して部屋に戻って行った。

母がいなくなるとノルウェンの視線が私に向いた。

助けてくれと頼んだわけでもないし、あまり関わり合いになりたくないので私もさっさと部屋に戻ろうとした。するとなぜかノルウェンに手首を掴まれた。

「何か用ですか?まさか感謝しろなんて言いませんよね?あなたが勝手にしたことですし、私は助けられたとも思っていません」

当然だろう。

ノルウェンのせいで母の機嫌は急降下。きっとあとで躾という名の暴力を振るわれるのだから。

「‥…」

ノルウェンはじっと私を見た後、徐にドレスの袖を捲った。

私の白い肌を埋め尽くすように痣があった。

「これはあの女がしたのか?」

「あなたには関係ないことです。それに私がどうなろうがどうでもいいでしょう?」

「‥…」

ノルウェンはまた黙ってしまった。でも腕はがっつりと掴まれているので無視して部屋に戻ることもできない。
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