極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です



 そのとき。
 寝室のドアが開き、隼理くんが出てきた。

 どうしようと思ったけれど。
 もう遅い。

 私は隼理くんと思いきり目が合ってしまった。


「夕鶴……?」


 私のことを見た隼理くんは。
 驚いた表情をしていた。


「いつからいたの?」


 気のせいだろうか。
 隼理くんの表情が。
 驚いているだけでなく。
 少し強張っているように見える。


「今来たところだよ」


 隼理くん。
 なんで強張った表情をしているのだろう。

 そう思いながら。
『今来たところ』と噓をついた。


「そうか」


 これも気のせいだろうか。
『そうか』と言ったときの隼理くんの表情が。
 ほっとしていたように見えた。


 もし、そうだとすれば。
 なぜ隼理くんは、私が『今来たところ』と言ったら、ほっとしたのだろう。

 そんな表情をしたら。
 やっぱり隼理くんには何かやましいことがあるのだと思わなくてはいけなくなってしまう。

 そう思うと、胸の苦しさが増した。



「俺が少しの間、離れてたから寂しかったのか?
 ほんと可愛いな、夕鶴は」


 私がこんなにも苦しんでいるのに。
 そのことを全く気付いていない隼理くんはそう言って。
 私の腕を掴み、寝室の中に引き入れた。


 そのあとすぐ。
 隼理くんは私をベッドに押し倒して。


「俺も。夕鶴と少し離れただけで寂しくて寂しくてたまらなくなる。
 常に夕鶴と一緒にいないと俺は夕鶴のことが不足してしまう」


 と、吞気なことを言った。


 ……吞気……。

 いつもなら。
 そんなふうに思わない。

 隼理くんの言葉。
 隼理くんの甘くてやさしい声。

 どれもこれも。
 いつもの私なら。
 とろけてしまいそうな気持ちになる。


 でも。
 今の私には。
 隼理くんの言葉も声も。
 全く響かない。
 何も感じない。


< 60 / 148 >

この作品をシェア

pagetop