また逢う日まで、さよならは言わないで。


私の部屋には半居候の人物が一名いる。



「ねえ、お願いだから。私の部屋に勝手に入ってくるのやめてくれない?」


「勝手に入ってねえよ。おばさんには挨拶して入ってるから勝手じゃねえだろ?」


「お母さんには言ってても、私には言ってないじゃん」


「ここの家の家主はおばさんだろ?おばさんがいいって言ってるから入ってるだけだし」



幼馴染の小池直哉(こいけなおや)は、学校から帰ると、大抵私の部屋のソファーで胡坐をかいて、部屋着で自分のスマートフォンを触っている。


たぶんゲームでもしているのだろう、


私は、持っていたカバンを適当な場所に置き、直哉の隣に座った。



「いくら幼馴染とはいっても、限度ってものがあると思うんだけど。私も直哉も高校3年だし、小学生の時みたいに勝手にこうやって家に上がられたらさ、ほら、私にも事情ってものがあるから」


「事情って?」


「……彼氏とかできたらさ、ほら、ね。わかるでしょ、私の言いたいこと」


「來花に彼氏できたらな」



私の顔を見ることなく、スマートフォンの画面を見ながら、返ってきた言葉はその一言。


今日こそはちゃんと説得して、この状態をどうにかしようと思ったが、今日もできそうにはない。



「あ、そういえば、どうだったんだよ。バイトの面接」



直哉は思い出したように顔を上げ、私のほう一瞬見てそう言った。


私は、大学に行く予定もない。


しかし、仲のいい友達が大学に行くために今年からは、受験勉強で遊べなくなるため、暇つぶしがてらアルバイトをしようと考えていた。



「ああ、受かったよ。明日から働くことになってる」


「そうか、よかったな」



自分から聞いておきながら、そっけない返事をする直哉。


私は、いつもよりゆっくりと立ち上がり、さっき適当に置いたかばんをデスクに置いた。



「思うんだけど。直哉。……あなた友達いないわけ?」



私は、カバンの中身をデスクに出しながら、そう背後でゲームに夢中な直哉に尋ねる。


私と直哉は中学までは同じ学校だったが、私は近くの高校へ行き、直哉は学力が優れていたため、少し離れた私立の高校に特待生として通っていた。


そのため、私は直哉が高校でどのように過ごしているのか、よく知らなかった。



「いるよ」



背後からそう声が聞こえてきたため、振り返ると、ほらというように、ゲームの画面を見せてきた。


私は、特に返事をすることもなく、首を縦に動かしながらデスクのほうに向き直った。


どうやら、友達と呼べる友達はいないらしい。


中学でも、ゲームばかりして口数が多くない直哉。


高身長できれいな顔立ちの彼は、一見モテそうなのだが、その内気な性格によって彼女がいたことは私の知る限りでは一度もない。


だが、家が近所で幼馴染ということもあり、私にはどういうわけかよく懐いているため、こうしてWi-Fi環境がいいからという理由をつけては、勝手に部屋に上がり込んでいるわけである。



「直哉君、今日もうちでご飯食べてく?」



一階から、母の声が聞こえる。



直哉の両親は仕事で海外にいるため、広い隣の一軒家に直哉は一人暮らしだ。


そのためか、うちの母はまるで自分の息子のように、こうして家に直哉がいるときは、ご飯を一緒に食べるよう誘う。


そして、直哉もそれに断ることなく一緒にご飯を食べて帰るというのがお約束である。

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