誘惑じょうずな先輩。
惑い

ほしい先輩



.



「あ、もどってこないかと思った」




予鈴ギリギリに教室に駆け込み、急いで席についたわたしに、となりから聞こえてくる声。


夏川くん、さっきもいまも変わらない飄々とした雰囲気。



「そ、……そりゃ、授業だから」



なるべく目を合わせずに答えると、夏川くんは面白そうに言う。




「怒って出てったひとが、そこは真面目なんだ」


言い返せない。


「いや、もう、あの、怒ってないから……っ」



あれは、ちょっとフキゲンだっただけで。

夏川くんが万里先輩の話題を出すからいけないんだよ。


人のせい、ちょっと許してほしい。




夏川くんがなにを思ってるのか、なんてだいたいわかる。



『ばかな女』


ぜったい、そうやって見くびられてる。




< 77 / 303 >

この作品をシェア

pagetop