またいつか君と、笑顔で会える日まで。
一橋リリカside
父はあたしが7歳の頃に病死した。

それまで暮らしていた一軒家を引き払い、あたしは母ととともに父方の祖父母の家の近くのアパートで暮らし始めた。

母は家のことをやらない人間だった。

家の中は常に物で溢れかえり、整理整頓という言葉には程遠いありさまだ。

時々、父方の祖母が家へやってきては片付けをしてくれていた。

でも、母はそれをとにかく嫌がった。

何かがあったときのためにと祖母に渡しておいた合鍵を取り上げ、祖母が家に出入りしないようにした。

母の両親は母が幼い頃に離婚し、母親が男と駆け落ちして捨てられた母は施設で育った。

身寄りのない母のことを案じた父方の祖父母が同居を提案しても母は頑なに首を縦には振らなかった。

それでも祖母は母や孫のあたしのことを気にかけ度々母との約束を破り家に入っては片付けやら洗濯やら料理やらと手を焼いた。

母はその行為にとうとう堪忍袋の緒が切れたようだ。

祖父母に内緒で夜中のうちに引っ越しをすると決め、祖父母の家から遠く離れた縁もゆかりもない南関東のアパートに引っ越した。

そのとき、あたしは小学校3年生だった。

友達や祖父母と突然引き離されたことはショックだったものの母と離れ離れになるわけではないと自分に言い聞かせて耐えることにした。

でも、今思えばあの一件であたしの人生はがらりと変わってしまった。地獄への入り口はすぐそこまで迫っていたのだ。

「まずは仕事を探さなきゃね」

母はなかなか役所に届け出を出してくれずしばらくの間あたしは学校に通うことすらできなかった。

ようやく登校できたのは引っ越してから5か月も後のことだった。

その間、あたしはずっと狭いアパートの中に一人でいた。

家の外に出て行くことも許されずほとんど軟禁状態だ。
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