精霊たちのメサイア

18.5【閑話】テオドール視点

18.5【閑話】テオドール視点


中央で踊っているレイラとアレクサンダー殿下を見ながら信じられない気持ちでいっぱいだった。


「テオ?」


俺の腕に手をかけるジュリアが心配そうな顔で見上げている。


「大丈夫?」

「……どうだろう。 少し混乱してる」

「あの2人、面識があったのかしら? アレクお兄様があんなに女性とお話ししてるところ、滅多に見ないわ」

「……いや、面識はないと思う」


レイラのあの驚きようは嘘じゃない。助けてあげられなかったのは申し訳ないが、あの場面では誘いを受ける他なかった。


「レイラ嬢から何か聞いてる?」


静かに近付いてきたトゥーサンにそう聞かれた。


「いいえ、何も。 というか、レイラ自身も今自分に何が起こってるのか分かってなさそうです。 元々得意じゃないダンスが更に不安定だし、あれは動揺しているんでしょう」

「もし何か分かれば教えてくれ」

「分かりました」


ダンスの後レイラはアレクサンダー殿下とテラスへと姿を消した。騒つく会場。そのざわつきを誤魔化すように次の曲が始まった。俺はジュリアを誘い、何事もなかったかのように踊った。

家に帰りついて直ぐに父の執務室へ向かった。


「ただいま戻りました」

「おかえり。 今回の優勝者もアレクサンダー殿下か?」

「ええ、そうです」

「レイラは部屋か?」

「はい」

「その顔は何かあったようだな」


父は椅子から立ち上がり、ソファーへと座り直した。俺は父と向かい合う様にソファーに座った。


「今回のパーティーはアレクサンダー殿下も出席されました」

「アレクサンダー殿下が? それはまた……信じられないな。 ちょっとまて、嫌な予感がする。 まさかとは思うが、殿下が誘ったダンスの相手は__」

「流石察しがいいですね。 レイラです」


父は額に手を当て上を向いた。大きなため息を溢して少しの間沈黙が流れた。父が今何を考えているか大体の察しはつく。

現状ではどの王子が玉座についてもおかしくない。その状況でアレクサンダー殿下とレイラが婚約者ともなれば、アレクサンダー殿下にはヴァレリー侯爵家という大きな後ろ盾ができる。それに、俺は第三王子殿下であるトゥーサンの妹であるジュリアと婚約している。トゥーサン殿下とアレクサンダー殿下が敵対する様な事になれば、まずい状態になる。


「レイラと話は?」

「しましたよ。 アレクサンダー殿下とは面識がなく、本人もダンスを申し込まれて驚いたそうです。 黒髪が珍しかったのかもしれないと言っていましたけど……」

「けど……何だ?」

「何か隠している様に見えました」


貴族や王族は嘘が上手い。だけどレイラはまだ貴族社会に入って間もないからなのか…元々の性格もあるんだろうが、仕草や表情に現れる。態とらしいくらい視線を合わせ、指先に落ち着きがなくなる。

レイラは悪い人間には見えない。そうは思うが完全に信じられたわけでもない。


「そうか。 私もレイラと話をしてみよう」

「えぇ、それがいいかと思います」

「まだ話すつもりはなかったが、お前にも話しておく。 レイラは教会の孤児院から引き取ってきたと話していたが、それは嘘だ」

「孤児院からではなければ何処から? まさか実は父上の隠し子とか言いませんよね?」

「馬鹿なことを言うな。 私はマリエル一筋だ。 レイラは侯爵領の屋敷の側の森の中で父が見つけた。 見たこともない服装、そして知らない文字を使い、レイラは声が出せなかった」

「それじゃあ何処の誰なのか……この国の人間でさえないかもしれないと言うことですか?」


そんな人間を養子に?祖父母はたまに驚く様な事をするが、今までの出来事の中で1番の驚きかもしれない。


「レイラの出身国はわからない。 レイラの本当の名も分からない。 だから父がレイラと名付けた。 それからレイラは、生命の神ベアトリス様の加護を授かっている」

「ベアトリス様の!? 神の加護を授かるのは聖職者でも難しいはずですよね!? 何故レイラが!?」

「分からない。 だがベアトリス様の神託により教会はレイラの後ろ盾となっている。 王都の教会を訪れては聖下と話をしているようだ」

「王族でさえ聖下と気軽に会う事は難しいのに、教会に行く度お会いしてるんですか? とにかくわからない事だらけですね……レイラに話は聞いてないんですか? それとも記憶がないのですか?」

「レイラに直接事情は聞いていないらしい」

「なっ__! 何故ですか!? 話せるようになったんですから聞けば早いじゃないですか」

「森で出会ったレイラは痩せこけ、怯えた表情を浮かべ、路頭に迷っている様な目をしていたそうだ。 だから父と母はレイラから話をしてくれるまでは過去に触れない様にしている。 レイラの顔に翳りが落ちない様に」


祖父母や父がレイラの過去に踏み込めないのなら、俺が踏み込んで聞いたところで拒絶されるのがおちだろう。

アレクサンダー殿下がレイラをダンスに誘ったのはまさか……。


「アレクサンダー殿下はベアトリス様の加護を持っている事を知ったのでしょうか?」

「どうだろうな。 あの方は考えを読むのが難しいからな。 王位継承争いに関心がある素振りを見せた事がないが、だからと言って関心がゼロとも言えない。 もし野心がありレイラに近づいたのであれば、黙って見ているつもりはない」

「私の方でもアレクサンダー殿下の動きには注意しておきます」

「あぁ、そうしてくれ」




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