精霊たちのメサイア

34.リタ

34.リタ


馬車の中で思わず出そうになったため息を慌てて引っ込めた。その代わり心の中で盛大にため息をついた。

怒りのあまり我を忘れて少女を買うなんて……結果として買ったわけじゃないけど、同じこと。あんなに感情をコントロールできなくなったのは初めてだった。トラウマ……なんだろうか。

私の目の前に座っている少女_リタは教会の孤児院にいたけど、どうやら娼館に売られてしまったとの事。アロイス兄様からは怒られるだろうな……今から気が重い。

侯爵家に到着して、まずはリタをお風呂に入れ、私のワンピースを着せて食事をさせた。涙を浮かべながら食べる姿を見て心が痛んだ。リタが食事を終えて、サラが用意してくれたお茶を飲みながらリタと話をした。


「リタは今いくつなの?」

「あ、恐らくですけど……16歳くらいかと思います」

「恐らく?」

「実は教会に拾っていただいた前の記憶がないんです。 自分の事が分からなくて、誕生日も拾われた日で年齢も周りの子達と比べてだいたいの歳を決めてもらったので、正確な年齢は分からないんです」


すごく落ち着いていて礼儀正しい。教会では礼儀作法をしっかり教えるんだろうか。


「行く当て……なんてないよね?」

「あ、はい……ですがこのままお世話になるわけにはいきませんので、どこか働ける場所を探します」


働ける場所ってすぐ見つかるものなんだろうか?日本ではバイドでも履歴書がいるわけで、この世界もそういうものがいるわけではないんだろうか?


「サラ__」


_コンコンコン。

サラにこの世界の面接事情を聞こうと思ったら、ドアがノックされて返事をした。どうやらアロイス兄様が帰ってきた様だ。

サラとリタを部屋に残して、私はアロイス兄様の元へ向かった。


「簡単に話は聞いた。 少女を拾ったそうだな」

「勝手なことしてごめんなさい」

「まったくだ……と言いたいところだが、お手柄かもしれん」

「え?」

「教会の孤児院にいる子が売られるなんて事は普通はありえない。 その子のいた教会の責任者は悪事に手を染め、私腹を肥しているのだろう。 他にも被害に遭った子がいるかもしれない。 それに他にも悪事をしている可能性もある」


どの世界にも酷い人はいる。

子供たちが安全に保護される場所なのに、人身売買に手を染めるだなんて……。もしもこの世界に来た時お父様が見つけてくれなかったら、私もリタと同じように売られていたかもしれない。そう思うと身体が震えた。


「レイラ? 大丈夫か? 顔色が悪い。 話はまた明日にするか?」

「ううん、大丈夫。 なんだか怖くなっちゃって……」


私がそう言うと、アロイス兄様は隣に座って背中を優しく叩いた。まるで小さな子供をあやす様に。


「彼女、身寄りは?」

「教会にお世話になる前の記憶がないんだって。 だから本当の年齢も名前も分からないみたい」

「そうか…では働き口がないか探してみよう」

「あ、あのね……できれば侯爵領のお屋敷でメイドとして働かせてあげられないかなって思ってて……」


私が救ってもらえた様に、私もリタに何かしてあげたかった。アロイス兄様ならちゃんとしたところを見つけてくれるだろうけど、もしも私がリタだったらまた同じことにならないかって不安な気がする。

沈黙の時間に胸が押し潰されそう。


「読み書きはできそうか?」

「あ、うん! 読み書きだけじゃなくて、受け答えもしっかりしてるよ!」

「……そうか」


考え込む様な素振りを見せるアロイス兄様を見ていると、落ち着かなくなる。でも何故かアロイス兄様に対しては信頼が大きくて、困ったことがあれば手を貸してくれる様な…解決してくれるような安心感がある。


「では私から父へ連絡を入れよう。 リタに話をするのはその後だ。 それでいいか?」

「うん! アロイス兄様ありがとう!!」


アロイス兄様は笑みを浮かべながら私の頭を撫でた。

子供扱いされてる様で少し気恥ずかしいけど、嫌じゃなかった。

それから話しはとんとん拍子に進み、リタは侯爵領のお屋敷でメイドとして働くことになった。話をして直ぐは自分が侯爵家で働くなんて分不相応だと首を縦に振ってくれなかったけど、日々説得をしてリタが折れてくれた。サラのサポートとして私のお世話をしてくれる事になった。

少し強引すぎたかなと思ったけど、リタとは仲良くなれると思ったし、そばにしてもらいたかった。よく分からない勘が働いたのかな……。




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