精霊たちのメサイア

8.家族団欒

8.家族団欒


私もお母様も元気になり、いつもの穏やかな日常を取り戻していた。

濃厚なチョコレートケーキを食べながら、美味しい紅茶を飲む。なんて幸せな時間だろうと思う。まさか自分がこんな穏やかな時間を過ごせる日がくるなんて思ってもいなかった。


「ダンスの授業に苦戦してると聞いたが、踊りは苦手か?」


いつもは一人かお母様と2人で寛ぐティータイムに、今日はお父様も参加している。


「今までダンスはした事がなくて……中々上達しないので、先生に申し訳ないです……」

「得意なものは人それぞれ違うんだから、あまり気に病む必要はないわよ」

「乗馬は慣れたものだと聞いたぞ」

「それに文字を覚えるのもとても早いって先生が褒めてらしたわよ」


お父様もお母様もいつも私を褒めてくれる。こんなにも褒められる事ってなかったから、ちょっとくすぐったい感じがする。調子に乗ってしまいそうだ。


「やってみたい事があれば遠慮せず言うんだぞ?」


(やってみたい事……)


「もし、ピアノがあるなら弾きたい」

「あら、レイラはピアノが弾けるの?」

「うん、ピアノは小さい頃からやってたの」

「弾き手が居らず、可哀想なピアノがある。 今度部屋に案内しよう」

「誰も弾かないのにピアノ置いてたの?」

「私たちや息子たちがたまに弾いてはいたが、ここ数年は殆ど使ってなくてね。 使う前に調律してもらった方がいいだろう」

「ありがとう、お父様」


声が戻ってたくさん話をする様になった。それなのに両親は私の事を詮索してこない。話した方がいいとは思ってる。でも、自分の口で語るにはまだ気持ちが追いつかない。


「もうすぐアロイスの息子の誕生日パーティーがあるんだが、レイラも一緒にと思っている」

「誕生日パーティー?」

「孫のテオドールの20歳のお誕生日なの。 王都の屋敷で催されるから、ついでに王都でお買い物はどうかしら?」


孫のテオドールには申し訳ないが、誕生日パーティーよりも買い物というワードにときめいた。欲しいものがあるわけじゃないけど、街を歩いてみたい。カフェとかには入ってみたい。


「行きたい!」

「ふふっ、テオもレイラが来てくれたら喜ぶわ」


年下の叔母さんが増えるって……孫たちからしたら複雑なんじゃないかと思った。喜ばれないとしても、受け入れてもらえたら良い方よね。


「正式に社交界デビューしていないから、無理にダンスをする必要はないが、いざという時のために踊れる様にはなっていた方がいいだろう」

「うぅ……頑張ります」

「はははっ! たまには私も練習に付き合おう」

「本当? 約束だよ?」


小指を出すと不思議そうな顔をされた。

テーブルの上に置いているお父様の小指に無理やり自分の小指を絡めた。


「こうやって小指と小指を結ぶのは約束ねって意味だよ。 こういう約束の仕方はしないの?」

「私たちは仲の良い者同士だと、こうやって約束をするんだ」


グー!と言わんばかりに親指を立てられたので、同じように親指を立てると、親指の腹と腹がくっついた。

今日も知らない事を一つ知れた。今は新しい事を覚えるのが楽しくてしょうがない。




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