伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「誰か。誰かいませんか!」

 今度は思いきり大きな声で叫んでみた。

 しかし、その声も闇に吸い込まれるように消えてしまう。

 のどが痛くなるほどの大声を出しているというのに、反響どころか、自分の声が自分の耳にすら届かないうちにすうっと消えてしまうのだ。

 体が急に震え出し、鳥肌が立つ。

 ここはいったいどこなのでしょう。

 何もない場所。

 完全な虚無。

 誰からも相手にされず、一切の感覚がない場所。

 ああ、もしやこれが地獄というものなのでしょうか。

 この状態がずっと続くのでしょうか。

 これならいっそ、炎で焼かれたり、串で刺されたり、猛獣に噛まれたりといった苦しみをあたえられる方がまだましに思えてくる。

「誰か! 誰もいないのですか!」

 返事はない。

 エレナは周囲を探るのをやめてその場にしゃがみ込んだ。

 地面はある。

 ただ、冷たくも暖かくもない柔らかくもなくなめらかでもなく、かといって、ごつごつもざらざらもしていない。

 落ちたり崩れたりはしなくても、地面と呼んでよいのかすら分からない、なんとも不思議な場所だった。

 もしかしたら、さっきから歩いているようなつもりだったけれども、一歩も動いていないのかもしれない。

 エレナは祈りを唱えた。

「ああ、神よ。わたくしは地獄へ落ちようとも、父はなにとぞ天へお召しください。亡き母とともに仲睦まじく平穏に暮らせるようにお取りはからいくださいませ。そのためなら、わたくしはどうなってもかまいません。この場で永遠の時を過ごせとおっっしゃるのであれば、それを受け入れます」

 父と母にはこのような場所にいて欲しくはない。

 エレナはもう一度同じ祈りを唱えた。

 と、その時だった。

 真っ暗闇の中で何かが動く気配がした。

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