伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 エレナはため息をつきながらベッドのふちに腰掛けてルクスの髪に手を伸ばした。

 サキュバスといったい何をしていたというのだろう。

 あんなに興奮していたのだから、二人できっと楽しいことをしていたのだろう。

 でも、それはわたくしとではないのですね。

 寝乱れた彼の髪を整えてやりながらエレナはルクスの寝顔を見つめていた。

「おお……エレナ……」

 ルクスが枕に顔を埋めながら名前をつぶやく。

 な、何をしているのですか、この男は。

 枕をわたくしだと思っているのですか。

 寝惚けるにもほどがあります。

 でも、その表情は嫌いではなかった。

 なんとも無防備で幸福感に満ちた笑顔だ。

 こんなルクスは見たことがない。

 起こしてしまわないように気をつけながらルクスの頬をそっと指先でなでてみる。

 目覚めさせてしまったとしてもかまわない。

 ただ、もう少しこのまま寝顔を眺めていたい。

「……エレナ……」

 寝顔を眺めているうちに、いつの間にかルクスの腕がエレナの腰に回されていることに気がつかなかった。

「あっ」

 寝惚けた彼に不意に力尽くで抱き寄せられてしまう。

 あ、あの……。

 エレナは絶句した。

 彼はマントの下には何も身につけていなかったのだ。

「……エレナ……」

 眠ったままの彼なのに、その腕にはしっかりとした力が込められていた。

 え……。

 あの……。

 急なことで心の準備ができていない。

 しかし、エレナはルクスの腕の中で彼のするがままに身を委ねていた。

 不思議な安らぎを感じる。

 なぜだろう。

 不安は何もない。

 エレナは初めて自分の気持ちに正直に向き合っていた。

 これがもしかして……。

 ラテン語の勉強そっちのけで夢中になったあの小説に書かれていた憧れの……。

 体の奥がまた火照りだす。

 と、そのときだった。

 ガバッ!

 ゾワゾワワ!

 ルクスの体が変形を始める。

 ミシッ!

 ギシシッ!

 巨大なゴキブリの姿に変身したルクスの体から爪やトゲの生えた昆虫の脚がニョキニョキと伸びてきてエレナの体をベッドに押さえつけようとする。

「キャアアアアアアアアアアアア!」

 もう何度目だろうか。

 エレナはまた失神してしまった。

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