愛がなくても、生きていける



「中村さんのことが、ずっと好きです。だからいきなりこんなことになって、あなたを困らせたくない、迷惑にもなりたくない。

あなたが私に笑いかけてくれた、その思い出さえあれば、私は愛なんてなくても生きていけるから」



言葉を発するほど、涙はぽろぽろとこぼれていく。



なんで、そんな俺のことばかり。

ちゃんと、俺の気持ちも聞いてよ。

そう伝えるように、俺は里見さんを正面からぎゅっと抱きしめる。



「確かに、少し驚いてる。けど、どうしようとか困るとか、そんなマイナスな気持ちは微塵もない。そんな半端な気持ちで、抱いたりしない」



なにがあったって、受け止めてみせる。

どうにかできる、してみせる。

きみへの愛で、なんだってできる。

俺はそう、信じているから。だから。



「ひとりで抱えようとするなよ。なんでも言ってよ、頼ってよ」



つらいときには支えるし、力及ばない時には一緒に考え悩むから。

だから、隠さないで。ひとりで生きていこうとしないで。



「愛がなくても生きていけるなんて、そんな寂しいこと言わないで」



俺は、きみとのあいだの愛がほしいよ。

生まれる子にも、沢山の愛を注いであげたい。



その言葉に、里見さんは顔をくしゃくしゃにして泣きながら笑った。



ピンク色の頬を涙で濡らす彼女は、まるで朝露にぬれた花のよう。

俺を太陽と言ってくれるなら、あたたかな光で照らしてその涙をかわかそう。

この先何度だって。そう誓うよ。



俺は抱きしめていた腕をそっとほどき、鞄から長方形の包みを取り出す。

そして包装紙をはがしケースを開けて、ネックレスを手に取った。



「……順番は違うし、指輪もない、ムードもないけど、今言わせてほしい」



首にそっとネックレスをかけると、彼女の鎖骨の間に大粒のダイヤモンドがきらりと輝く。



「俺と結婚してください。きみも、お腹の子も、一生かけて愛し支えるよ」

「はい……」



頷いた里見さんに、ふたり額を寄せて笑うとそっと優しいキスをした。



きみが期待する言葉はわからない。

なにを言えば喧嘩にならないかとか、表情から読み解くことも難しい。

だけど、それでいい。

きみには思うことだけを伝えたいから。



いつだってまっすぐに。

本当の気持ちだけを、伝えたい。



  
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