愛がなくても、生きていける



それから、通夜、葬儀と工程はそつなく行われていった。

通夜へ参列した人たちは棺の中の母を見て『ゆうこさん、桜の花好きだったものね』と母の思い出話を語っていた。

何度も何度も涙をこぼしたけれど、穏やかな気持ちで母を見送ることができた。



そして、それから一ヶ月半が過ぎ迎えた四十九日。

私は母の納骨式の前に、喪服のまま中村さんのお店へと向かった。



まだ開店して間もない、朝一番の店先でドアを開けた瞬間



「いらっちゃいまちぇ〜!」



たどたどしい声とともに、ツインテールの幼い女の子がお店から飛び出してきた。

この子は……たしか、中村さんの娘さんだ。

くりっとした丸い目で私を見る、その小さな姿を見つめていると、奥からはバタバタと足音が響く。



「あー!花乃、勝手に外に出ない!ってあれ、沙智ちゃん!」



黒いエプロンを身につけたいつも通り明るい中村さんの姿に、少しだけ心がホッとした。



「お通夜のときはありがとうございました。これ、お礼に」

「そんな、気にしなくていいのに。でもわざわざありがとう、いただきます」



そう言いながら洋菓子の入った紙袋を手渡すと、中村さんは遠慮がちに受け取る。



「いろいろ落ち着いた?」

「はい。正直あれから片付けとか書類とかやることもたくさんで、ようやく落ち着いたって感じです」



はは、と苦笑いをした私に、中村さんも小さく微笑む。そして全身黒の私の服装に目を留める。



「そっか、今日四十九日だっけ」

「はい、これからお寺に行って納骨なんです。それで、お墓にお供えするお花を買いたくて。選んでいただいてもいいですか?」

「もちろん。ちょっと待っててね」



中村さんはそう言って、店内のケースの中からいくつかの花を手に取る。



それを見つめて待っていると、とことこと足元に寄ってきた娘さん……花乃ちゃんが、「んっ」と私になにかを差し出した。

不思議に思い、私は視線を合わせるように花乃ちゃんの前にしゃがみこむ。


  
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