愛がなくても、生きていける



「凛、紹介する。うちの旦那の侑吏と、娘の花乃」



あやめに紹介されて、旦那さん……侑吏さんは名刺を取り出しながらお辞儀をする。



「初めまして、中村です。この度はお世話になります」



にこりと笑うその顔は、まるでイケメン俳優かというくらい整っている。

あやめと並ぶと美男美女だ、とふたりのオーラに圧倒されながら私も名刺を差し出した。



「こちらこそ、この度はお世話になります。初めまして、清水(しみず)凛です」



お互い名刺を渡し合う。自分の名刺の『フリーフォトグラファー』という響きが、まだ慣れなくて少しむずがゆい。

侑吏さんは、その名刺をしまいながらにこやかに話した。



「あやめとは高校の同級生だっけ?昔のあやめってどんな子だったの?」

「今と変わらないですよ。『氷の女王』て呼ばれてて、告白してくる男子を容赦なく振りまくって……」

「ちょっと凛。余計なこと言わない」



あやめにキッと睨みつけられ、私はあわてて口を閉じた。

そんな私たちのやりとりを見て、侑吏さんはおかしそうに笑う。

クールなあやめとにこやかで明るい侑吏さん。一見真逆なふたりだけれど、これはこれでいい組み合わせなのかもしれない。



「じゃあこのあと、店内の写真と侑吏さんの仕事風景を撮らせてください。こんなショットがほしいとか要望はありますか?」

「いや、特には……あ、しいていうなら、イケメンに撮ってもらってもいいかな!?」

「なにバカなこと言ってるの」



冷静につっこむあやめに、侑吏さんは笑いながら花乃ちゃんを預けた。



明るく優しい旦那さんに、かわいい子供。そんな絵に描いたような幸せな家族に、あやめの表情も柔らかだ。

いいな、素敵。

眩しくて、うらやましい。



だってそれは、私には手に入らなかったもの。

そしてこれから先も、手に入らないだろう未来だから。



  
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