白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜


 夜色のドレスが広がり、星がまたたく。

 とても素晴らしいドレスだと思っていた。こんなかわいい美少女が、こんな美しいドレスを着たら、誰もが振り向くくらいとびっきりのヒロインになるのだと思っていた。

 だけど、私の足は竦む。
 私なんて、大したことなかった。

 本当に花のように綺麗な人たちがゴロゴロといて。胸が大きい人。モデルみたいな人。人形のような人。芸能人みたいな人たちが、みんなこれでもかと着飾って。

 『リイナ=キャンベル』は可愛い。だけど、綺羅びやかなパーティー会場に一歩入れば、烏合の衆。しかも他の人たちは、ただそこに立っているだけでも、華があるのだ。姿勢のせいか。小さな所作が美しいのか。内面から溢れる気品か。そのどれもが、私には足りないもの。

「リイナ。あそこ」

 私に腕を貸していたお父様が、小さく指した先には人集りが出来ていた。

 そこには、会場内でもさらに目を引く美男美女が集まっていて。カクテルグラスを片手に、談笑をしているようだった。その中心にいた人物が、ふとこちらを見る。

 サッパリとした金髪だけに飽き足らず、その凛々しい瞳もキラキラと輝いていた。一見白いタキシードのようにも見える服には、ところどころ濃紺のラインが入っており、彼の若々しさが引き立っている。

 爽やかで、男性なのに美しくて。そんな人が、私にとろけるような笑みを向けた。

「リイナ!」

 さり気なく彼の腕に触れていた美女の手を振り払って、彼はまっすぐ私へと歩を進めてくる。

 早鐘のように心臓がうるさい。頭の奥が熱くなる。それなのに指先が冷たい。動けずにいた私の背中を、お父様が優しく押してくれた。 

 そして正真正銘の王子様が、私に両手を広げる。

「リイナ! 驚いた。すごく綺麗だ!」

「あ、あの……エドワード様……」

「あぁ、もう本当にビックリしてしまった。天使が舞い降りたのかと思ったんだけど……白いドレスを選ばなくて良かったよ。そうだったら天に連れていかれる所だった」

「えっと、その……」

 王子に会ったら、なんて挨拶するべきか。

 令嬢としての最低限の礼儀として、一応勉強はしてきたつもりだったのだけど――鼻息の荒い彼は、口を挟む暇さえくれない。

「ねぇ、リイナ。本当可愛い。この場の誰よりも可愛い。世界中で一番可愛い。ねぇ、もっと見ていい? 前も後ろも右も左も全部見ていい? あぁ、でもこれ以上他の人にリイナを見せたくないな。この際だから、このまま部屋に連れ帰ってもいいかな? 僕だけのリイナにしてもいい? しちゃってもいいよね?」

「エドワード殿下」

 大きめの咳払いが会場に響く。私の半歩後ろの立つお父様が、いつも以上に鋭い視線をエドに向けていた。

「私も歳ですかな。耳が急に遠くなってしまったようで……もう一度仰っていただいても宜しいですか? 仮にも父親の前で未成年のリイナをどうしたいと?」

「キャンベル殿にはまだまだ世話になりたいからね。老けるのはもう少し待ってもらいたいな」

「では、せめて私が席を外してから、健全に口説いていただけますか」

「はは、善処はしてみるよ」

 そう挨拶とも呼べないやり取りをしてから、私の腰にエドの腕が回される。
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