白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「けどなぁ、かなり病弱で……でも本当にいい子なんだぞ! 辛いのは自分だろうに、いつも健気に俺を気遣ってなぁ。体調の波を縫って、少しでも仕送りしている俺に負担かけないように内職もしているんだぜ」

「……治らない病気なの?」

 前世の自分を思い返して、私も最悪のケースを覚悟しながら聞くも、

「いんや。もうすぐ治る」

 と、それはアッサリ返ってきた。

「もうすぐな、特効薬が手に入るんだ。すごく希少で高価な代物なんだけど……もうすぐそれが手に入る」
「なーんだ」

 思わずそう答えると、ショウはふてくされてしまった。

「なんだとはなんだよ! ここまで来るのにすごく大変だったんだぞ? 好きでもない盗賊なんかと手を組んで、チマチマと金を稼いで……仕送り分と合わせて、俺がどれだけ――――」

「あはは、ごめんごめん! そういうつもりじゃないんだけど」

 そう――決して馬鹿にするつもりなんてない。

 ただ、ちょっと羨ましいなと思っただけ。治って、こんなに優しいお兄ちゃんを喜ばせてあげられるその妹ちゃんに、嫉妬しただけ。

 私は、喜ばせてあげられなかったから。
 高い治療もたくさん受けさせてもらって。それでお父さんもお母さんも、いつも古い服ばかり着て。そんな苦労させても、私は最後に悲しませただけだったから。

 だけど、同時に安堵もした。私みたいな親不孝者は、どの世界でも私だけで十分だ。

 まぁそれを……わざわざショウさんに話して、同情してもらいたいわけじゃないからね。
 私は楽しく水羊羹を食べたいから、今の我ながらどうしょうもないお悩み相談を続けるよ。

「そんなことよりもエド王子よ! お財布問題は安心したけど、さすがに書きすぎじゃない?」
「まったく……でも、返事送らなくて大丈夫なのか? さすがの王子も拗ねるんじゃないのか?」

「毎回毎回『お返事ください』的なことは書いてある」

「一通くらい送ってやればいいじゃないか。字は書けるんだろう?」

「それは大丈夫そうだけどさ」

 懐かしい物を食べて。からかわれては拗ねて。愚痴を吐いて。

「でも内容が……あんな甘言になんて返したらいいのか……」

「それこそ『わたしもエドのことが大好きです?』だけでも喜ぶと思うぜ」

「なっ、そんなこと?」

 自分から要求したラブレターの返事が、恥ずかしくて書けない。そんな相談、本当に面倒だと思うけど、

「なんでそこで赤くなる。朝っぱらから堂々と叫びまくっていたじゃないか」

「それはそれ。文字にすると尚の事恥ずかしいと言いますか……」

 いつも笑って、その大きな手で私の頭をポンポンと撫でてくれる。

「あーもう。水羊羹食べちゃいなって。俺の分もやるから」

「……うん」

 そんなショウさんとの時間が、私は好きだった。

 エドと過ごすのとは違う、穏やかな時間。もちろん、エドと過ごすのが嫌なわけじゃない。だけど、心臓に悪いから。喜んだり、恥ずかしかったり、悲しくなったり。

 もう抜け出せないのはわかっているけど、沼の中で一喜一憂し続けるのは大変だから。
 たまには質素に塩むすびを食べたくなるような、そんな感じ。

 暑くなってきたというのに、今日も小鳥がチュンチュンと囀っている。
 でも、ちょっと待てよ? 前々からショウはお兄ちゃんぽいなぁ、思っていたけど、本当にお兄ちゃんしているのか。うわぁ、すごいぞ私のお兄ちゃんセンサー。

 少女漫画によく出てきたお兄ちゃんズ。一人っ子の私は何度懸想を抱いたことか。今となりにいる人物は、まさに理想のお兄ちゃん。改めて、妹ちゃんが羨ましいぞ!
「そういえばさ、こないだやったスイートポテト大丈夫だった?」

「お土産でももらったやつ? どうして?」

「あのあと俺、腹を壊してさ」

「えっ?」

 余ったのを貰って帰り、夜食に一人で平らげたのは記憶に新しい。でも翌日も何も問題なかったので私は「大丈夫」と頷く。するとショウはまたケラケラと笑った。

「そうか! まぁ、馬鹿は腹も強いっていうしな!」

「それ違う! 色々と違う!」

 んん? やっぱりこんなお兄ちゃんいたら大変なのか?

 いつか妹ちゃんに会える機会があったら聞いてみたいなぁ……そう考えながら食べる水羊羹は、私の喉をツルンと通っていく。


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