スイレン ~水恋~
2-2
新婚旅行から帰ったお兄と杏花さんからは、これでもかって貢ぎ物(おみやげ)を手渡された。ご当地名物だとか、値の張りそうな工芸品だとか。

いちばん気に入ったのは漆器のコーヒーカップ。ソーサーもスプーンも栃の木を使った漆塗りで、飾ってもすごく可愛い。お兄にこのセンスはないから、選んでくれた杏花さんにボーナスポイントを密かに付与する。

お礼に(?)三人での食事に付き合ったり、地元に帰省した学生時代の友達とお茶したり、ゴールデンウィークも残りわずか。天気がイマイチで家でまったりしてたら、部屋に志田が姿を見せた。

「お嬢、夜は先生と食事になったと若から伝言が。・・・出かけるなら今のうちに車を出しますが」

「おじさまと?あたしも?」

訊けばどうやら、お兄の披露宴に出席できなかった穴埋めらしいけど。大型連休なんてあちこちに飛んで票集めにいそしんでると思ってた。お父さんとは旧知の仲でなおざりにも出来ないってところ?

「組長と姐さんは直接ホテルに向かうそうなんで」

場所はホテル。となれば、それなりのドレスコードよね。支度がちょっと面倒。

「分かったわよ。今日はどこも出かけないから」

「承知しました」

目礼して志田はドアの向こうに消える。正直に気乗りしない。でもお兄の為の会食って言われたら。

あずちゃん、あずちゃんって昔から可愛がってくれて悪い人じゃないの。ただ自分も大人になったら見え透いてくるものがあるって、それだけ。

溜め息で憂鬱を逃し。服を選んでおこうと、ベッドに投げ出してた躰をのそのそ起こしたあたしだった。


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