エセ・ストラテジストは、奔走する

彼女の想いに触れて、





家に辿り着いたら、いつものパジャマ姿の千歳が驚いた顔のまま出迎えてくれた。

何の連絡もせずに来たからそれは当たり前だ。


でも、リビングに入った瞬間。



「何してんの。」

「な、何も。」


テーブルに置かれていた自分のスマホを光の速さで取り上げた彼女は、明らかに様子がおかしい。

胸できゅ、と抱くように持ったそれは、"画面を見られたくない"のがよく伝わった。


"余裕ぶっこいてると本当痛い目見るぞ。"


…どうしてだか、この間からやけに
あの傷心中の男の言葉が再生される。




「お風呂、お湯ためようか。入浴剤も入れる!」

「いい。」


話を変えて、そう明るく提案しながら傍から離れていく千歳に、一気に不安になったのはもう気のせいじゃない。


「…茅人…?」


腕を引いて、華奢で小さな彼女を自分の腕の中におさめたら、すぐに戸惑いの声が聞こえてきた。


余裕なんか、無い。

あるのはいつも、あの頃の混じり気のない真っ白な雪みたいに、千歳に向かう降り積もらせ過ぎた気持ちだけだ。



「茅人、どうしたの。」

「どうしたのって何。」


「…いつもなら、こんなことしない、でしょ?」


狼狽がはっきり伝わるくらい、辿々しい。

そんな声色のままに届いた言葉は、自分の胸を抉られるには充分だった。



抱きしめて、こんな風に戸惑わせている。
 

_____俺は、今まで何をしてた?



痛む胸を抑えるように、ぎゅ、と力いっぱい抱きしめて千歳に頬を摺り寄せる。


おずおずと、俺に応えるように背中に回る腕の温かさも、心地よい香りも、昔から何も変わらないのに。


言いようの無い大きな不安が、
静かに静かに、だけど確実に。

心を食べ尽くすように支配していくのを感じていた。
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