双生モラトリアム
セフレという現実

家族だから、きょうだいだから、仲がよくて当然ーーそんなこと、誰がいつ決めたんだろう?

女性には必ず出逢う人がいるって、誰がいつ決めたのだろう?

努力は報われるだとか、諦めたら終わりだとか。無責任で耳障りのいい言葉ばかり世の中には溢れる。

そりゃあ、そうだ。
同じ努力をしても、それ以上の努力をしても。結局、人間は勝者と敗者に分かれる。

そして、敗者の方が多いというのが現実だった。




雨は、好きだ。

暗い雨が音を、姿を消してくれる。
けれど、雨の日の夜は、嫌いだ。



ああ、まただ……。と、うんざりした。
メントールのキツい、タバコの臭い。
熱を持ちだるい体を動かす気にはなれなくて、目だけで広がる煙をぼんやり見た。

ひんやりしたシーツは気持ちいいけど、空気に触れた肌は汗が冷えて寒い。エアコンの温度も空調も、目の前の彼は決して私には合わせてくれないだろう。

今までも、これからも。

「じゃあ、オレは先に出る。時間経ってから出ろよ」
「……わかった」

ひとしきりタバコを吸い終えた彼は、私の返事を聞いてから立ち上がる。フウッ、と最後に大きく煙を吐いてから、吸い殻を灰皿へ押し付ける。間接照明のムーディーな中で目だけで見上げると、そこにいるのは既に次期社長に相応しい佇まいのビジネスマン。

ことを終えた彼は、私に一瞥もくれずさっさと部屋を出ていった。
きっと、既に清算など終えているだろう。
やることとえば一つしかないこの無駄に華美な建物の中で、用済みな私は捨てられる。いつも通りに。

妹・舞(まい)の婚約者である、相馬 樹(そうま いつき)に。

雨の日が、その合図だった。

< 1 / 88 >

この作品をシェア

pagetop