双生モラトリアム
壊れていく


白い白い巨大な建物の無機質的な構造は、幼い子どもに恐怖を与えるには十分だった。

『舞のお見舞いに行きましょう』……と、一度だけお母さんが言ってくれて。家族で入院してた舞をお見舞いに病院に初めて行った時のこと。
確か、幼稚園の頃だったと記憶してる。

舞と違って風邪ひとつ引かなかった私は、生んでくれた“母”とともに産婦人科を退院して以来、医療機関のお世話にならなかったから。

舞は、手術を受けて1ヶ月ほどの入院で。その時はまだ素直な子だったと思う。お見舞いのお菓子や果物を、お母さんに内緒で分けて食べたし。看護師さんに一緒に怒られて、クスクス笑いあってたりした。

そして、舞の口から出たのが“そーくん”という名前だった。

“そーくんはね、舞とよくお喋りしてくれる病院のお友だちなんだ。舞と同じ団地に住んでるんだって。退院したら、一緒に遊ぶ約束をしてるの”

妹の舞がとてもとても嬉しそうに話すものだから、私も“そうだね。あたしもいっくんと一緒に遊んでるよ。なら、舞とそーくんがよくなったら、みんなで一緒で遊ぼうよ!”と当然のように答えた。

そして、指きりの約束を舞として。

“うん!やくそくだよ!”
“ゆーびき~りげんま~ん、嘘ついたらはりせんぼんの~ます!”
“ゆびきった!”
“ふふ、楽しみだね。舞、早くよくなってね!”
“うん!舞も楽しみだなあ……そーくんはね、将来社長さんになるんだって!”
“ふふーん、いっくんはお医者さんになるって言ってたもんね”

そんな無意味な張り合いが楽しくて、お互い笑いあった。

あの無邪気な日々は……もう、二度と……還らない……。
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